夕闇イデア

□U
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江戸川コナンは焦っていた。
まさかこんなにも早く、昨日の少女と会えるとは思っていなかった。
沖矢も家にいるかどうか分からない。
独自で調べると言っていたが、昨日の今日でそれもどれだけ進んでいるか不明だ。
とりあえず阿笠博士の家に連れ込み、そこから連絡を取れば――

「おや、コナンくん」

名を呼ばれ、振り向く。
ちょうど良い――むしろ良すぎるタイミングで、沖矢昴がそこに立っていた。
買い物袋を手に持っているので、スーパーにでも行っていたのだろう。

「す、昴さん」

駆け寄ると、彼は膝を折って話しやすい高さに調節してくれた。
小声でどうしよう、と囁く。

白い少女が、チラリと視線を寄越した。

「歩美ちゃんがさっき偶然会ったらしくて。とりあえず一緒に博士の家に行く約束はしたんだけど」
「なるほど。では、私も同行しましょう」

好都合とばかりに細められていた目を開き、彼は言った。
普段は隠されている緑の目がはっきりと現れる。
歩美たちに引っ張られて近寄ってきた彼女を見て沖矢は立ち上がった。

「こんにちは。沖矢昴と申します」
「…こんにちは」

白髪の少女は、凛桜と名乗った。
服装はチャイナ服ではなく、至って普通のものだ。

「これから阿笠博士のお宅へ行かれるのですよね?」
「らしいですね」
「よろしければ、子供たちが昼食を食べている間、私の話し相手になって頂けませんか」

少女が警戒を強めた。
探るように沖矢を見て、しかし彼女は意外なほどあっさりと首肯した。

「いいですよ」
「お姉さん、早く行こう!」
「あぁ、うん」

歩美は既に凛桜に懐いているようだ。
懐かれている彼女自身はそれに困惑しているが、なんとなく付き合っているらしい。
急かされながら阿笠邸の隣へ、少女を案内した。

「立派な邸宅だね」
「工藤新一お兄さんのお家なんだよ!」
「工藤新一お兄さん……?」

首を傾げた凛桜が、どこかでその名前を見たような、と呟く。

「新聞じゃない?新一兄ちゃん、よく載ってたし」
「あ、そうそう。新聞で見たんだ。高校生探偵工藤新一くん」

コナンの助け舟に凛桜が頷いた。

「坊ちゃんなんだねぇ」

感心したように言う彼女に、沖矢が玄関へ入るよう促す。

「今は誰もいないから、昴さんに貸してるんだ」
「へー」

素直に従い、門を通った彼女に歩美が手を振る。

「凛桜お姉さん、また後でね!」
「うん、また後で」

軽く手を振り返して背を向けた凛桜の後ろで、コナンは沖矢に素早く盗聴器を渡した。
視線を交わして頷き合い、彼らは別々の方向に歩を進めた。



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