俺プリBL小説

□第1話 命令、唐突に
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秋。涼しげなイメージにあるこの季節も、
11月にもなれば流石に寒い。
もう下旬。感覚的には9月、10月と
並んで秋に入れられることも多いが、
暦の上では立冬を過ぎているので、
もう冬である。

「寒……」

ぶるっと震える。

「大丈夫か?…ほら、これ着ろよ」

低い声が聞こえる。
大好きな染谷先輩の声だ。
差し出されたのは俺には大きい
制服のブレザーだ。
勿論、持ち主は先輩。

「ありがとうございます。
 でも、大丈夫ですよ」

にこりと笑って応える。
気持ちはとても嬉しいが、
それでは先輩が凍えてしまう。
ブレザーを脱げば、
着ていたベストと薄いシャツが露わになる。

「無理すんなって、震えてるだろ」

「でも、先輩が風邪引いちゃいます」

「俺の事なんてどうでもいいんだよ。
 ほら、暖かいだろ?」

先輩は俺にブレザーを羽織らせてくれた。
一瞬肩に触れる大きな手と
先輩の優しさに、胸がキュンとなる。

「あっ、ありがとうございます…」

俺の顔が真っ赤になるのが
自分でも判る。
それは紛れもなく、
寒さの所為ではないものだ。
徐々に頬が熱を帯びてゆく。

「お前、何赤くなってんだ」

染谷先輩が俺の顔を見て笑う。
白い歯が覗き、
とてもかっこいい。
思わず見とれてしまった。

「だって、先輩が
 かっこいいことするから…」

ドラマや小説で、
よく彼氏が彼女に自分の上着を
着せてあげる場面がある。
実際先輩は俺の彼氏である。
いや、俺も男なんだけど…。

「それに、このブレザー、
 先輩の匂いがします…」

俺の大好きな、先輩の香りだ。
とても落ち着く。
ずっと着ていたいくらいだ。

「お、お前…なんてこと言うんだよ…」

先輩が俄に驚いた顔をする。
俺と同じく、とても真っ赤である。

「え?俺、今なんか変なこと言いました?」

何で先輩まで真っ赤に?

「いや、いい。
 多分お前には判んねぇだろうな」

「せっ、先輩!?」

耳許で囁きながら、先輩が
大きな身体で俺を抱きしめた。

暖かいものがじわじわと染み込んでくる。

薄着のせいか、
先輩の胸板や腹筋の感覚が
伝わってくる。
俺の心臓が早鐘を打つ。

しかし、それは先輩も
同じだったようで、
忙しない鼓動が伝わってくる。
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