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「えっ、どうして?」

不思議そうに要が尋ねるのも無理はない。

このままでは、その男子生徒2人の疑惑が解けないままになってしまう。

が、ちさきの答えは

「だってこのことがみんなに知られちゃったら……光が悪者になっちゃう……!」

そんなものだった。

「ちさき……」

「でも」

反論しようとした要の言葉を遮るように、ちさきの悲痛な声は続ける。

「だって光がこれ以上傷つくの……私見てられない……!」

「…………」

ちさきの、涙を溜めて俯く横顔を見る柚奈は、心中に何か熱いものが込み上げてくるのを感じた。

しかし、直感でそれは根本的な解決にはならないと理解もしていた。

「ちさき、その……その気持ちは分かるけど……」

そのことを伝えようと柚奈が口を開いた時、入り口から小さい物音が聞こえた。

「悪者もなにも、誤解したのは事実だろ」

よく聞き慣れた声。

「紡……!」

「紡くん!」

教室内に足を踏み入れた紡はそのままちさきに向かう。

「嘘つくのはきっとよくない。どんどん孤立することになる」

「違う!!」

大きな叫びががらんとした空間に響いた。

「私達が作ったものを、生臭いって言うような人達なんだよ……!!」

それは初耳だった。

ちらし寿司が生臭いというのは、明らかに鹿生の人間へ向けての嫌味ととれただろう。

紡はあくまで冷静だった。

「みんな本当は悪い奴じゃない」

「ちらし寿司わざとこぼすような人達が!?」

ちさきは涙を湛えた目で、紡を睨む。

しばしの睨み合いの後、ちさきは紡の横をすり抜けると、教室からの去り際に

「……いい人だって思ってたけど……、やっぱり地上の人なんだね」

そう言い捨てて走っていった。
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