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一方の汐鹿生では、地上へ向かう道の近くで光と要が集まり、たわいのない話をしていた。

村の大人達はここ最近の地上の人間の勝手とも取れる行動に、常にピリピリした空気を出していた。

あかりのこともあり、地上への好感度が下がっているのは明らかだった。

子供達にとって、それはあまり居心地の良い環境とは言えなかった。

「おっちゃん達、最近毎日愚痴ってねーか」

「ま、仕方ないところもあるんじゃないの」

そうなだめられるも、宮司の父を持ち、要よりも村の苛立ちを身近に感じている光にとっては、それはそう割り切れるものではなかった。

「なあ、ちょっと上行ってみねえ?」

「うーん……あまり良い顔はされないと思うけど?」

「んなもん知らね!」

止める素振りを見せた要を無視して光は地を蹴って、地上へ向かって泳ぎだした。

「もう……」

要も渋々、光に続いて地を蹴った。


‐‐‐‐‐‐


「あ!」

先を泳ぐ光が突然声を上げ、スピードを緩めたことで、要が追いつき、同様に停止する。

「どうしたの?」

「あいつら……!」

光の視線の先には、船底の影がはっきり見えていた。

「この辺りは漁やるなっつってんのに……こんなだからおっちゃん達が怒るんだろうが」

「光?」

嫌な予感を感じて声をかけた要は一足遅く、光はすでに泳ぎ始めていた。

もちろん、船に向かって。



「おい!」

ざばっと勢いよく水を上げながら、光が水面から顔を出した。

「……光?」

そして、驚いて振り向いた柚奈と紡と目が合った。

「あれ、紡?」

続いて顔を出した要も驚いた声を上げた。

「よう」

「どうしたの、2人とも」

ゆるゆると近づいてきた船に、2人は引き上げられた。

「柚奈も一緒なんだ」

「うん、今日は特別に乗せてもらったの。すごいんだよ、ほんとに汐鹿生がね……」

要に先ほどの感動を伝えようとする柚奈を気にせず、光は紡に向かった。

「この辺での漁はやめといたほうがいい」

「何で?」

「村の親父達が怒ってんだよ。そろそろ何し出すかわかんねーぞ」

「…………そうか」

紡は何かを考えるように少しうつむいた。

「怒ってるって、でも紡達だって漁をしなきゃ……」

責められるような形になっている紡をフォローするように、柚奈が慌てて口を開く。

「だーかーらー! 別に漁はやるなって言って
ねーだろ! 決められた範囲でやれってことだよ!」

「でも、今日は紡、私に汐鹿生を見せてくれようとしてここらへんに来たのかも……」

「鹿生を?」

「そうなの! 上からでも、鹿生が見えたの! すごく綺麗だった……!」

「そういや前に言ってたな……」

光がちらっと紡を見遣ると、紡は頷いてから、

「次からは、ここでは漁をしない。約束する」

真っ直ぐに光を見つめてそう言い切った。

「お、おう……」

「だってさ、良かったね光」

あまりの素直さに少し押された光に、要のからかいを含んだ言葉が飛んだ。

「う、うるせーな!」

「あはは。折角だし、みんなで見ようよ。汐鹿生! 中にいるのとはまた違ってきらきらしてるよ!」

柚奈の言葉で、4人は並んで水面を覗き込んだ。
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