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「あ」

帰り道、紡がひとり歩いていると、前から走ってくる人影が紡に気づいて足を止めた。

「柚奈」

紡の前まで来ると、柚奈は少し力のない笑顔を見せた。

「紡。今、帰り?」

「そうだけど」

「てことはもう、終わっちゃったんだ……」

がっかりしたように、柚奈が目を伏せる。

「……おじょしさまのことか?」

「……うん……」

紡の質問に、 柚奈は正直に頷いた。

「夕食の当番?」

「…………うん……」

再び、頷く。

一気に3歳くらい幼くなったようにがっくりと肩を落とす柚奈。

「それなら、仕方ないだろ。あいつらも気にしてなかったし」

紡は慰めるように言うが、柚奈は不満そうに顔を上げた。

「私が嫌なの……!!みんなと一緒に、やりたかった……」

案の定食ってかかってきた柚奈を冷静に見つめていれば、しばらくすると落ち着いたのかそっと息をついた。

「……ごめん、取り乱した」

「いや」

夕飯の用意を終わらせてから作業に加わろうと思っていたのか。

紡は、突拍子もないその考えに多少の驚きを感じていた。

精一杯急いで、台所でバタバタと走り回る柚奈の様子は、 想像に難くなかった。

「……あんまり無理するなよ」

「わかってるよ〜、大丈夫!」

柚奈は、先程とは違う、明るい笑みと共に答える。

「じゃ、帰るね。まだ全然明るいから、今日は送ってくれなくて大丈夫!また明日ね」

笑顔のままで手を振ると、柚奈は紡に背を向けて来た道を走って戻り出した。

「ああ」

紡はそれをしばらく立ったまま眺めていたが、やがて自分も家へ向かうべく歩き出した。




だから。

別れた直後に柚奈がすぐに笑みを消して険しい表情になったことを、紡が知ることは、無理というものだった。
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