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「今日はみんな調理実習だったんだっけ……」
わずかに廊下に残る香りを感じながら、柚奈は木工室に向かっていた。
時間は放課後。今日は昼休みにも行こうと思っていたが、担任からの呼び出しがあって結局間に合わなかったのだった。
「あ、もう来てる。みんな早いねー……ってあれ?2人だけ?」
柚奈は、珍しいこともあるものだと、
椅子に座っている要とちさきに近づいていった。
「何してるの?」
立ててあったはずのおじょしさまが見当たらない。
ちさきが持っているものがおじょしさまの頭だと気づいた柚奈はちさきの手元を覗き込んだ。
が、
ちさきの手の中に収まっているのは、ペンで汚されたおじょしさまの頭だった。
要の膝に乗っている着物も、破かれた上に"ば〜か"などの文字が踊っている。
「あ、こ、これは……」
言葉に詰まったちさきは要を見るが、要はただ肩をすくめるだけ。
「…………ひどい」
しばらく無惨に落書きされたおじょしさまの残骸を見つめていた柚奈は、小さくぽつりとそう漏らした。
「…………誰がこんなことを?」
あくまで静かに尋ねる柚奈の瞳は、悲しみと怒りで満ちているようだった。
「えっと……」
「ちさき」
正直に、クラスの男子生徒がやったかもしれないということを告げるか否かを迷ったちさきに要が声をかけた。
その視線の先は、ちさきの手元。
3人が目を落とすと、おじょしさまの後頭部辺りに、はっきりと挑発以外の文字が書かれているのがわかった。
「『さゆ三じょう』……?」
ちさきの読み上げた声に、要が「さゆ?」と反応した。
「知ってるの?」
「ああ、光に因縁つけてた謎の小学生」
「小学生……? 」
「あからさまな犯行声明だね。クラスの奴らじゃなかったんだ」
「ちょちょちょっと待って、どういうこと?」
話を進めていく2人に一旦待ったをかけ、柚奈はいっこうにつかめない状況を聞いた。
「ああ、えっとね……」
要が説明を始める。
調理実習で作ったちらし寿司をクラスの男子生徒にこぼされたこと、昼休みにおじょしさまが壊されていたこと、光がそれを男子生徒達がやったと思い体当たりをしたこと、そして光とまなかが早退したこと……。
そしてその間、何事か考え込んでいたちさきは、要の説明が終わるとほぼ同時に、突然おじょしさまを拭いていた手を再開し、強く擦り始めた。
「ちさき?」
しばらく擦ったあと、ちさきは震える声で
「こ、このことは黙ってよう? 3人だけの秘密にしよう?」
そう言った。