天の星
□trick or treat ?
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「よし決めた、一緒にクッキー食べましょう」
程なくして考えが定まった祈さんからの提案。
「はい構いませんけど…」
返事を確認するや否や(どうせ拒否権なんて無いんでしょうけど)袋を開け1つ取り出して口に挟んだ祈さんを見て体がフリーズした。
(いや、きっとこれから食べるつもりなんだよな。うん、そうに違いない)
一縷の希望は次の一言で呆気なく霧散した。
「はい、どーぞ」
器用にも口にクッキーを挟んだまま声をかけてくる。
「………」
「無道さん、早く」
この人相手にもとより逃げ場など存在しなかった。
「…いただきます」
クッキーへ口を運ぶと唇に柔らかいものがあたった。
一口サイズなのだからそれを2人で食べれば至極当然ではあるのだが…。
気にしないようにすればするほど意識してしまい味なんて全く分からない。
「美味しい?」
「はい…たぶん」
「じゃあ次は交代ね」
何が交代なのかなどは問うべくもなく…数秒クッキーと睨めっこしてから口に挟む。
「ふふ、いただきます」
頬に手を添えられて少し上を向かされる。
無論されるがままだ。
「ん…無道さん、少し口開けて」
挟んでいたクッキーが祈さんの舌と一緒に口の中に流れ込んでくる。
次第にクッキーが柔らかくなっていき抵抗なく喉を通り過ぎる。
しかしそれで終わりではなく更に舌を絡めてくる祈さんに応える。
何十秒、いや何分かも知れない『1つのクッキーを食べる』という行為を終えたのは酸素が足りず頭がぼうっとした頃になってだった。
「はぁ…はぁ…」
「最初のより美味しかったわよ」
「そ、そう…ですか」
「ええ」
そう言いながら顔を近づけて来るので少し身構えたが唇のすぐ横を舐めるだけで顔が離れていった。
「クッキーついてたわよ」
「言ってくれれば自分で取れます」
子供扱いされたように感じて、でもそれがこの人相手だと嫌ではないから不思議だ。
「もう一個食べる?」
「そうですね、もう一個くらいなら」
その後
「それにしても、お菓子くれなければ悪戯するでしたよね?」
「んーそうなんだけど…無道さん用に特別で trick and treat にしてみたの」
「…そうですか」