天の星

□存在
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朝の件のおかげで少しは落ち着いたものの、そう完璧に切り替えられるものでもなくて…
周りに気付かれない程度にはその日1日苛ついていた。

まあ当然といえば当然だが紗枝には気付かれていた。
しかしもう1人、あたしの様子に気付いた奴がいた。


夕食も終え部屋でくつろいでいる時、そいつは訪ねてきた。

「お邪魔します」

「急に来るなんて珍しいな、夕歩」

「そうだね」

「んで、どうした?」

「玲に用があって」

「そりゃそうだろな。ここに来て紗枝に用があったら驚きだ」

「馬鹿にされてる感じがする。まあそれは置いといて、玲に2つ用があって来たの」

「なんだ?」

こいつの事は好きだし、こいつといる時間も好きだ。
しかし今はいつ誰にこの苛つきの八つ当たりをするか分からない。
用件をさっさと済ませるに越したことはない。

「うん、1つはこれ」

そう言いながら綺麗に包装された箱を差し出してきた。
これはタイミングを考えても今日のために用意されたもので…

「誕生日おめでとう、玲」

「…………」

紗枝とは違う、本当の意味での祝いの言葉。
しかし受け取るための手を出すことも、なにか言葉を出すことも出来ない。

「玲?」

「…………」

夕歩が不思議そうに見てくるが応えるための発声が出来ない。
夕歩の表情が不思議そうなそれから考えるようなものになり、何を思ったのかこちらを真っ直ぐ見つめてくる。

「もう1つの用と被ってるかも」

「夕歩…?」

「玲、今日なにかあった?」

「……」

「ずっと怖い顔してるし、今もそうなった。今日が誕生日なのと関係ある?」

「…!?」

まさか気付かれてたとは思わなかったし、そこまで核心に来られるとも思っていなかった。
驚愕、戸惑いで考えがまとまらないでいると正面から夕歩に抱きしめられた。
10cm以上の身長差のせいで夕歩は立ち膝になってる。
普段とは逆で夕歩に包まれている、そんな感じがした。

「無理には聞かないけど、よかったら教えてほしい」

そんな風に言われては断れないし、自身でも驚くほど落ち着きを取り戻していた。
それから家のことや自分の思いを話して聞かせた。
しかし不思議と嫌な気分にはならなかった。

「でも私は今日に感謝してる。だって玲とこうしているのもこの日があったからでしょ?それに私はそのままの今の玲が好きだよ」

「夕歩…」

「だから、お誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう、玲」


物事はそう単純なものではないと思ってたけど、この日もそんなに悪いもんじゃない。
そう思えるようになった。

人は1人では生きていけない。生活とかそういう意味もあるけど、精神とか心とかそういった面でも何処か誰かに拠り所を求めている。
認めてほしいと気づいてほしいと願っている。

人の存在理由や意義に正解なんてないんだ。
出そうとすればするほど分からなくなる。
形にすることは難しい。
でも確かにそこにある。
夕歩の言葉はその事に気付かせてくれた。


「こっちこそ、こうして隣にいてくれてありがとな」
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