天の星
□好きだから
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今がそうじゃないって訳ではないけど、天地にいた頃は気付けば傍に隣に居てくれた。
それはもう鬱陶しいくらいに私を見つけると駆け寄ってきた。
あの頃を懐かしく思ってしまう私はまだ子供で、貴女に手を伸ばして近寄りたいのに素直になれない自分が心底嫌になる。
「ただいま〜」
いつもの間延びした声が聞こえた。
卒業した後は順に押し切られる形で一緒に住むことになった。
押し切られるとは言ってもやはり嬉しく思ったのは本人に言っていない。
「遅かったわね。バイトお疲れ様」
そう声をかけるとわざとらしく肩を落とすので、どうせまともなことを考えていないだろうと思いつつも問う。
「どうしたの?」
「いや〜ただいまって言ったら「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも…」っていうのを期待してたからさぁ」
「…言わないわよ」
こめかみを押さえながら返す。
「やっぱり?」
残念と言いながら笑いかけてくる順の表情は優しい。
そういった話題を振ってくるのは相変わらずだけど引き際が上手く、私とのやりとりを楽しんでいる感じがある。
その余裕に私は置いて行かれてしまうような感覚に陥る。
「汗かいてるし先にお風呂入るわ。染谷、課題やってたでしょ?区切りつけて一緒にご飯にしよ」
「そうね。…ってどうして課題の途中って分かるのよ」
「それ」
私の目を指して言われて眼鏡をかけたままだったことに気付く。
「抜け目ないわね、本当に」
「そりゃ忍者ですから」
そう言って脱衣所へ向かっていった。
夕食を済ませ分担通りに片付けを終わらせた後は2人でソファーに座って寛ぐ。
ふと時計に目をやると夕食自体が遅かったので結構いい時間になっていた。
隣を見ると疲れているのか順は眠た気に目を擦っていた
「寝ないの?」
「ん〜…染谷は?」
「もう少し課題を進めるつもりよ」
「…それ今日やらないとダメな奴?」
「そんなこと無いけど…順?」
「そんじゃ一緒に寝ますか」
「え?」
嫌な訳じゃなく単に驚いた。
最近の順は私の行動に口を挟まなくなっていたから…
だからそんな些細な我儘が、順から距離を埋めてきてくれたことが嬉しかった。
自分から提案しておいて私が否と言えば今の順が笑って諦めることは簡単に予測できて、でも素直に気持ちを言えるほど器用じゃない私は少し呆れを含ませて返す。
「仕方ないわね。今日はもう寝ることにするわ」
「そうそう、休むのも大事だかんね」
嬉しさを全面に出したような笑顔に少しだけ頬が熱くなるのを感じた。