天の星

□存在
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望まれていない存在。
初めから、生まれたところから間違いである存在。
それが―あたしだ。


生まれる場所や性別なんて選べない。
成績や態度ならいくらでも善処出来るが、どう足掻いても自分ではどうしようもない事を責められても…あたしにどうしろと言うんだ。



夢見が悪かったのかいつもより早めに目が覚めた。
じっとりと嫌な汗をかいているが別に夢の内容を覚えている訳ではない。
しかしながら3月14日という日は決まってこうだ。

「ったく…いつまでこんな事続けんだか」

もう少し横になっていようかとも考えたが体に張り付くシャツが不快だったので起き上がる。
冷蔵庫からペットボトルを取り出し渇いた喉を潤す。
よく冷えた水が体全体に浸透していく。

「…走るか」

部屋でじっとしている気にもなれず、どうせシャワーを浴びるならその前に体を軽くしようと思った。

(…それにそうすれば余計な事を考えずに済むだろうしな)



いつものコースをいつものペースで走る。
しかしいつもと違い体が思うように動かない。
走ってはいるものの身が入ってない感じだ。
不自然に息があがってくる。

(くそっ…)

自分の弱さに腹が立つ。
自分の存在について馬鹿みたいに悩んで正解を見つけようとして結局落ち込んで…その繰り返しだ。

いい感じとは言えないまでも適度な汗をかき軽くストレッチをして素振りを始める。


しばらく振り続けて少し休憩。
学校もあるしもう1セットしたら戻ろうと思い立ち上がろうとした時、後ろから声をかけられた。

「今日はいつもより早いわね」

「んー、まあな」

声をかけてきた人物の方を向くでもなくそう応える。

「そういうお前も少し早いんじゃないのか?」

「玲が早く起きそうな気がしたから」

そう言いながら紗枝は隣に腰をおろした。

「いい性格してんな」

「あら、ありがとう。それと誕生日おめでとう」

「…ほんといい性格だ」

今日がどういう日か知ってて、尚かつそこに踏み込んでくるのだから…


あたしは自分の誕生日というのが嫌いだ。
生まれた時から出来損ないのレッテルを貼られて、女というだけで存在価値を決められて、いくら努力しようが認められる事もなくて…
今日はそれらを象徴するような日なんだ。


「誕生日でも学校はあるんだから、顔洗ってその怖い顔どうにかしてから来なさいよね」

「分かってるって」

紗枝のそんな台詞に苦笑いしながら応える。
それだけでも幾分か肩の力が抜けて軽くなったように感じた。

「ありがとな、紗枝」

「何のこと?」

「なんでもない」

とぼける紗枝にそう応えて会話は終わる。
あたしは横にある練習刀を持って立ち、紗枝は寮へと向かった。
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