天の星
□どこが好き?
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あの子は私なんかには勿体ないくらい素敵なところが沢山あって、どうして私なんかとって思うことがよくある。
あまりにも不釣り合い過ぎて人がいるところだとどうしても距離みたいなものを置いてしまう私を、あの子はどこか寂しそうな目で見るんだ─
「今日の星奪り、ダメだったなぁ。夕歩はどうだった?」
「もちろん」
「親指それじゃ逆だよ」
いつものように親指を下に向けて言う夕歩に自然と笑みがこぼれる。
この子の隣はなんていうかすごく落ち着く。
しばらく歩いていると手に柔らかいものが触れる。
手を繋いで欲しいっていう夕歩からの合図。
手を重ねてから少し逡巡して指を絡める。
それだけで距離がぐんと縮まった感じがする。
「恵ちゃんの手はあったかいよね。私の手、冷たいでしょ?」
「子供体温なんだよ。そう?私には調度いいけどな。それにこの時期はいいけど夏は夕歩と繋げないかなぁ、暑すぎて」
「それも調度いいよ、きっと」
「そうだね」
言葉を交わしながら寮に向かう。
近付くにつれて繋いでいた手は解け、距離が元に戻る。
夕歩は何かを言いたげに目線を送るが私は気付かない振りをしていた。
夕食を終え部屋に戻ると例によって例の如く久我さんがいた。
「なんで順はここに来るの?」
「なんでってそりゃ姫のお庭番ですからして」
「姫言うな」
「いついかなる時もお側に馳せ参じようと思った次第」
「帰って」
「冷たいお言葉」
「はぁ…恵ちゃんからも言ってやって」
「え、あーその…」
「いやもういっそのこと部屋代わろうか増田ちゃん」
「順、怒るよ」
「いや〜姫に怒られるのは勘弁したいわ」
そう言って立ち上がった久我さんはドアに向かおうと足を出す。
私の横をそのまま通り過ぎるかと思いきやすれ違いざま
「あんまり夕歩の機嫌、損ねないようにね」
そう小声で言った。
「そんじゃ夕歩、1人で寝れないようだったらいつでも呼んでね」
「ないから…」
─バタン
呆れたように言う夕歩に久我さんは笑いながら去っていった。
私はタイミングが掴めず声をかけられないでいた。
少しして沈黙を破ったのは夕歩の方だった。
「ごめんね、いつも五月蝿くて」
「気にしてないよ」
「……」
「……」
『夕歩/恵ちゃんは…』
今度は同時に口を開いてしまった。
「恵ちゃんから」
「え、うん。そのこんな事聞くのは夕歩、気分悪くするかもしれないんだけど…私のどこが好き?」
「え?」
「夕歩は可愛いし凄いし良いところ沢山あるけど、私なんか何もないし…その夕歩と釣り合ってないなって」
「……」
「ごめん、こんな事聞いて」
「…だから2人の時じゃないと近くにいてくれないの?」
「………」
狡いと分かっていても俯いてしまう。
気配で夕歩が近くに来たことが分かる。
膝の上で握っていた手の上に夕歩の手が置かれる。
一瞬身体が強ばったがすぐ力が抜ける。
こんな時でもやはり落ち着いてしまう。
「私はそのままの恵ちゃんが好き。釣り合う合わないは周りの人が勝手に思ってるだけだよ?恵ちゃんが隣にいるとあったかい気持ちになる。それだけじゃダメかな?」
「ダメじゃないね」
普段の自分からは考えられないがこの時は自然と夕歩を抱き寄せていた。
「あ…」
「…嫌だった?」
恐る恐る聞く。
「んーん、違う。恵ちゃんに包まれてるみたいで安心する」
「そっか。ねぇ、夕歩」
「なに?」
「好きでいてくれてありがとう」
「私からもありがとう」