拓茜
□怖い夢から
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「水鳥ちゃん…」
「ん?どうした?茜」
突然、親友が服の裾を掴み俯き加減で名前を呼ぶものだから少し心配になってそれを問う
「あのね…助けてほしいの…」
「……ん!?」
あまりに突然すぎたその言葉に理解するのは時間をかけても難しいものだった
*
「…つまり、茜に前々から告白してくる男がいて、断っても断っても告白はやめないと…で、また今回も呼び出されたってことか?」
「うん…」
茜の顔色が悪い。
話によれば、呼び出されたのは昨日の部活後で前に行かなかった時は迷惑メールなどの嫌がらせにもあったらしい
…悩みに悩んで寝不足なんだろう
「…その人、それなりに親が良い財閥なんだって…こんなこと先生に話せないし、親に相談しても…その後何があるか分からないからって…」
「…なるほどな…」
「だからね、助けてほしいの…迷惑だってことは分かってるけど、水鳥ちゃんしか頼れる人がいなくて…」
「茜…。…当然だろ!あたしを誰だと思ってんだ!いざとなったらそいつをボコボコにしてやっからな!」
安心しろ!と言って茜の柔らかい髪を撫でると茜はホッとしたように笑った
今まで誰にも伝えられなくて苦しかったのかもしれない。相手には権力もあり、逆らえば何をするかもわからない
あたしが茜をそんな呪縛から解いてやんねーと
*
「お前マジ凝りねーなwww」
「当たり前だろw次断ったら無理矢理俺の好き勝手させてもらうしwwwつか俺を振るとか許せねーし、財閥の力でもフル活用しよっかなーwww」
「うわwwwお前やべーわwww山菜かわいそw」
「…山菜?」
聞き覚えのある、というより部活の仲間である彼女の名前に廊下にいた俺は思わず反応してしまった
教室にいる男子たちには聞こえなかったらしい。話を続けている
「で?具体的になにするつもりだよw」
「あー、まず家連れてこうかなwほら俺んちちけーじゃん?山菜ほせーから力尽くで連れてけそうだし」
「おまwいきなりヤんの?www」
「いいじゃねーか、お年頃だろ?」
下世話な会話に腹がたつ。
今この場からこいつをしめても良かったかもしれないが、ここは一つ策を練ろうか
確かあいつは何処かの財閥の御曹司だったな。パーティで何回か見たことがある
本気で財閥の力なんて使おうと思うなら、心底呆れるものだ
そういう言葉はもっと上手く使うべきだろうに
*
放課後、部活が始まる前に茜は呼び出された
「…あの」
「あっ山菜さん来てくれたんだ」
校舎裏、あまり人目につかない場所で辺りはシンと静まっている
茜が一人の問題の男子の元へ向かっている間、あたしは近くのある裏庭で身を潜めていた
走れば告白現場にはすぐに駆けつけられるだろう
でも茜はちゃんとした動きがないと言い訳されるって言ってたから何かされてもすぐには動けないわけ…
「その…また、ですか…?」
「うん、いやぁごめんね。何回も呼びだしたりして
山菜さん、俺君のことが本気で好きなんだよ。付き合ってくれないかな?」
「…ごめんなさい。貴方とは付き合えません」
少しだけ間を置いた茜の返事を聞いた奴は、悲しむどころかニヤリと笑った
「…そうかぁ、山菜さんは自分がどうなってもいいんだ?」
「…え?…きゃっ!!」
突然茜の腕を引っ張ったと思ったら自分の方へ抱き寄せて茜の身の自由を奪う
「やめて!離してっ!」
「いいの?そんなこと言っちゃって、お父さんの会社がどうなっても知らないよ?」
「!!」
茜の腰に手を回したところでもう我慢出来ずに走り出す
…でも、そんな必要は無かったみたいだ
「…………おい。」
茜とそいつの前には既に携帯電話を持った神童が立っていた
その表情は怒りとかそんなんじゃ表せないものになっている
「し、神…童!?」
「シン様っ!」
「山菜、無事か?」
「茜!大丈夫か!」
「あ、う…うん、大丈夫。ちょっと体を触られただけ…」
でも茜の大丈夫は神童にとっての大丈じゃなかったらしく、いつかの信長の力を発揮したように神童の髪や周りの大気はユラユラと揺れていた
「女性の体を触ったぁ……?しかも山菜の……ほぉ…。そういえば財閥の力がどうとか言っていたな…お前のような弱小財閥は神童財閥の力だけでも捻り潰すことができるんだがどうしてほしい?
一つ選ばせてやる。
神童財閥の手で潰されるか、この画像を公表して面目を汚すか、どっちがいい
まぁどちらにせよ、お前の社会なんて未来がないがな」
いつの間に撮っていたのか、神童は男が茜に抱き付いている画像をそいつに見せた
「ひっ…ひぃっ…すいませんでした!!かんべんして下さい!!」
「ハッ、それで許されたら世界は平和だな。まぁ楽しみにしておけ
…あ。逃げるなら今のうちだぞ。部員が俺にボールを届けに来る前に逃げた方が身のためじゃないか?」
「う、うわぁああ!!」
無様に逃げ出した奴に少しだけ同情してその場はなんとか収まった
「…あ」
ホッとしたのか、茜はヘナヘナと腰を抜かして座り込んでしまった
「あ、茜!大丈夫かよ!」
「う、うん。シン様、水鳥ちゃんありがとう」
目には少し涙が溜まっている。多分怖かったんだろうな、なんて考えていたら神童が茜を抱き上げた
「えっ!?し、シン様!?」
「ん?歩けないんだろう?俺が部室まで連れてくから」
「い、いえ!あの…大丈夫です!多分!」
「いや大丈夫じゃない。少なくとも俺が大丈夫じゃない。俺がやりたいからやってるだけだよ」
「は…はぃ…。じゃあ、お言葉に甘えて…すいません…」
さっきとは打って変わって、神童は凄い良い笑顔をしている。…こ、こえぇ…
「てか神童、さっきあいつの財閥を潰すとかなんとか言ってたけどいいのかよ?そんなことして」
「あぁ、アレは嘘だ」
「嘘!?」
「当然だろ、本気で奴が財閥の力を使おうとするなんて呆れて物も言えない。だから俺はああやって神童財閥を怒らせるとどうなるか、知ってもらったんだよ」
あたしからしたらそれだけじゃない気がしたけど、本人がその気持ちに気付いてるのかも分からなかったため、ただ苦笑いで返すだけだった
「山菜、今度ああいうのが来たら俺を頼るんだぞ」
「え?」
「俺が山菜を守るからな」
「え、えぇ!?」
素なのかキザなのか、答えは求められないけどこれは茜にとって最適なボディガードなんじゃないかとあたしは心の中で呟いた
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怖い夢から
君を覚ましてあげる
end