小咄

紅葉(もみじ)
3ページ/6ページ

3日後、まだ紅葉が散らないうちにと、早めに取材がセッティングされた。


「お天気になってよかったですね。」

「そうだね。凄い荷物じゃないか。貸して。」

「ダ・・・・・・ダメです!これは私の仕事ですから!」


打ち合わせの時と違って、今日の僕は完璧だった。完璧な仕事モード。穏やかな笑顔をふ
りまいて、耳障りのいい言葉を口にするだけ。


「少し、写真を撮らせていただいても構いませんか?」

「もちろん。それが君の仕事だろう?」


何度もとらされるポーズも、答え飽きた質問も手馴れたもの。


「あの・・・・・・」

「何かな?」

「よかったら、休憩にしませんか?――実はお弁当、作ってきたんです。」

「それはいいね。ちょうどお腹が減っていたんだ・・・・・・ありがたいな。」


簡単だ。みんなの理想のエボン党党首を演じればいい。本当は――誰かの手料理なんて、
恐ろしく苦手だけれど、ね。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ