小咄

□天にかける橋
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結局、祭りに出なかったユウナは、真夜中になって、ひとり海に出た。船の上で寝転んで
空を見上げると、満天の星が輝く。


―――ねぇ・・・キミはどこにいるの?


スピラの空に、溶けてしまった?


いつだったか―――キミは私の服を見て、織姫みたいだと笑ったね。そして織姫を知らな
かった私に、一年のうち、たった一日しか愛する人に会えない(そら)の姫だと―――その
姫が愛する人の名は彦星だよと、教えてくれた。


けれど結局、私は織姫にはなれなかった。


今夜はこんなにたくさん、星が出ているのに―――あの日彦星のように宙へと消えたキミ
は、私の元へはやってきてくれない。


ティーダ。いまキミは―――?


その時。ひとつぶの水滴が、ユウナの頭にポツリと落ちた。ユウナはもう一度空を見上げ
たが、相変わらず空には雲ひとつなかった。そっと濡れた前髪に触れる。


―――キミが、私の空に橋をかけてくれたの?


私がいつまでも泣いてるから。
夜、家で独りになると泣いているから。


「会いに、来てくれた・・・?」


ユウナは、少し湿り気が残る自分の手を見つめた。キミは―――どこかにいる。ほんの少
しの間、どこかの海で疲れたその身体を癒してるだけ。

今日だけは、そう信じてみようか。
だって今日は7月7日だから。


愛する人に―――会いたいけれど会えない人に―――会える日だと、キミが教えてくれたから。
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