小咄
□午睡
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「あー、来月には開幕かぁ。」
桜を見上げて草の上に寝転んでいたティーダが、上半身を起こして思いきり伸びをした。
絶対的エースを擁したオーラカの優勝でシーズンが幕を閉じ、その後行われたオールスタ
ー戦がファンを熱狂させたのは、つい先週のことだった。ナギ節が訪れるまで、スピラの
人々にとって唯一の楽しみだったブリッツボールのシーズンは長いのだ。
「短いお休みだね。」
「これ以上休んだら、身体がなまるよ。」
ティーダの笑い声を聞きながら、ユウナは、スフィアプールから飛び上がり、金色の髪
から水を滴らせてボールを蹴りこむ彼を思い描いた。
「私だけ―――休んでばっかりだなぁ。」
ユウナは、数年前の自分からは考えられない怠惰ぶりに半ば呆れながら、苦笑する。
ティーダだけじゃない―――リュックもパインも、ワッカさんもルールーも、みんな
やるべきことを見つけて忙しそうにしてるのに、自分だけ、何もしないでただティーダの
傍にいる。このままじゃいけないとわかってはいるけれど―――
「いいんじゃない?ユウナは今までがんばりすぎたんだから、さ。それに―――」
春は昼寝の気持ちいい季節だから。
そう言ってティーダは再び草の上に身体を放り出した。本当に今にも寝てしまいそうな顔
をして気持ち良さそうに目をつぶる彼の横顔を見つめながら、ユウナは、自分がやりたい
ことは何なのだろうと考えてみた。
いつまでも、立ち止まっているわけにはいかない。
分ってはいるけれど―――もう少し。もう少しだけ、彼の傍でのんびりしてみても、
許されるかもしれない。奇跡のような出来事を積み重ねてようやく握ることができたこの
手に、今はもう少しだけ触れていたい気分なのだ。
やっと出会った2人だから。
大事にしなければいけない想いだから。
それに―――春は昼寝の気持ちいい季節だから。