善と悪
□情報屋
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「いやー、よく気づいたね。」
まるで賞賛するように、小馬鹿にするように拍手をする折原さん。
「......バカにしてるんですか?」
「いや?これでも最大限に褒めたたえているよ。」
とてもそうは見えないような声色で言ってくるその真偽はわからない。
「で、今回のこともあなたが全て『裏で操っていた』んでしょう?」
新宿の情報屋、折原臨也は実は前々からリングに目をつけていた。
そして、目をつけていたにも関わらず何もしていなかったのを行動に移したのが三日前。
刑務所から出所した館島に会い、紗夜のメールアドレスを教えたのだ。
案の定館島は今回のようなことをしたのだ。
しかし、臨也はこのようなことを仕掛けたにも関わらずリングを潰そうとは思っていなかった。
「いや、そこまでわかっているとはね。やっぱりすごいよ、君」
「ありがとうございます」
紗夜は臨也に対して一切警戒を解くことなく言う。
「あなたと話したいことは色々あるんですけど...まず折原さん。21歳っていうの、嘘でしょ」
「そうだよ?でもまぁ俺、永遠の21歳だから」
全く詫びた様子がない臨也の事は気にしていないのか、次の話をする。
「で、なんでリングに手をだそうとしたんですか?そんなに面白いチームでもないでしょうに。人数も今日集まったのに少し足したぐらいです。そんなリングを潰したって......」
「君のそれだって嘘だよね。リングの構成人数は二百人以上。その大体部分はこの池袋にいる。それにチームカラーが白黒なだけに気づかない。例えばサラリーマンならワイシャツにネクタイ。女子学生、男子学生もまた然り。小学生だって白い服にランドセルで済むんだから。まあ、さすがに小学生はいないみたいだけどね」
「......やっぱり、新宿の情報屋の名は伊達じゃないですね」
「褒め言葉と受け取っておくよ」
ヘラヘラとしているが、その目は決して笑っていない。
「でも、私もこれはこれで抜かりなくやってたつもりなんですよ?なんで私がリングのトップってわかったんですか?」
「それは君もさっき言ってたじゃないか。最近の御時世、パソコンでちょちょいとやったら出てくるってさ。まぁ、誤情報も多かったけどさ。中学生の男みたいな声だったとか、ハスキーボイスだったとか、他にも高校生ぐらいの男、中学生ぐらいの女、金髪の高校生ギャル。そういえばマンガに出てきそうなお嬢様、ってのもあったかな?」
(そういえばふざけてそんなこともしてたな......)
紗夜はこうやって誰かを嵌めたり(こんな内部に入ってきてのようなパターンは珍しいけれど)、どこかのカラーギャングに攻め行ったりするときは毎回違う格好をする。
もちろん、正体がバレないようにするためだ。
「まあ何よりもすごいのはメンバー全然の顔を覚えている君の記憶力かな?」
「言いたいのはそれだけですか?......で、私と関わってどうしたいんですか?あなたが正臣にしたこと......忘れたわけじゃありませんよ」
紗夜は声を一段と低くして言い、威圧感が増す。
それでも臨也はカラコロと笑いながら答える。
「いや、今は何もする気はないよ。今は......ね」
そんな臨也を睨みつつ、紗夜は先ほどの威圧感を消す。
「ではまあ......とりあえず、それまでは仲良くしましょうか。同じ人間として......ね」
威圧感を消して笑うが、決してその目は笑っていなかった。
――《同じ人間として》