善と悪

□日常
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館島とはその後リングの連絡用携帯のメアドを交換して別れた。
にしてもあの顔、どっかで見たような気がするんだよなー......
そう思いながら帰路についていると、


「あ、夕方の」


と声をかけられ後ろを振り向くと、夕方ぶつかったあの男性がいた。

「あ...あの時はすみませんでした」
「いいよいいよ。そうだ、今から暇?」
「今が割と深夜帯、ということを除けば暇ですよ。お茶でもしますか?これも何かの縁だと思って」

♂♀

近くのファーストフード店に入り、フードを取った私とは違いその人はコートを着たままであった。
前は暗闇なのでわからなかったが、改めて見てみるとこの人は眉目秀麗という言葉をそのまま具現化したかのような顔立ちをしている。

「あ、えっと...あなたの名前は......」
「俺の事は通行人Aでいいよ。君は?」
「じゃあ私は通行人Zでお願いします」
「Zて」

苦笑されたが、気にしないでおこう。
後々考えたらちょっと、というかかなりイタイ気もするけどそれも気のせいだ、うん。

「つかぬ事をお聞きしますが、Aさんは只今何歳でしょうか?How old are youです」
「...君さ、変わってるって言われるよね、というか変人?」

初対面の人に変人とは失礼な。
今は夜中だからテンションがちょっと高いだけなのに。

「所詮深夜テンションというものですよ。普段はここまで変わってはいないと思います」
「自覚あるんだ。俺は21歳。君はたぶん中学生?」
「はい、中3でもうすぐ高校生です」
「へぇー。このあたりだったら来良?俺の母校なんだ、あっこ」
「まぁ、そうでしょうね」

Aさんとはそんな他愛もない会話ばかりだったのだが、最後に少し気になることを聞かれた。

「そういえばさ、君の友達に紀田正臣くんっている?」
「えぇ、まぁ......?」

正臣と知り合いなのだろうか?
その事を聞こうとしたのだが、

「もう遅いから帰ろうか。送るよ?」

と半ば無理やり話を打ち切られた。
話を掘り返すのも悪いと思い、

「そうですね。家すぐそこなんで大丈夫ですよ」

と、送ると言われたのはやんわりと断った。
さすがにほとんど見知らぬ男性に家を教えるほど女としてすたってはいない......と思う。
それから会計をすまして、店の前で別れた。

♂♀

それから家に帰ると既に深夜12時を回っていた。
新宿の情報屋についてもう少し調べても良かったのだが、眠気には勝てずシャワーだけ浴びてベッドにダイブした。
朝起きてからいつもの日課を始める。
新聞は取っていないのだが、一応ポストを確認しておく。
そこから顔を洗い、制服替わりの服を着る。
黒のニーハイをはき、黒のスカートの下にスパッツ、上は白いワイシャツに黒のネクタイ。
正臣に一度何故こんな白と黒のコントラストの服を着るのか聞かれたことがあるのだが、自分の好みだと答えておいた。
実際の理由は、リングのカラーが【白黒】だからである。
白黒というのは実に目立ちにくく、隠れれる色であるから。確か父さんの手紙にはそんなことが書いてあった。
ちなみに学校登校時も普段もこの服装である理由は、リングのメンバーに私がわかるようにするためである。
だから、仲間になった人にはまず私の服装を覚えてもらう。顔も覚えてもらうけれども。
隠れてしまう色であるゆえに、仲間が誰かというのも実際わかっていないことが多い。
だからせめてリーダーだけはわかっておいてもらおうとしているのだ。
まぁ雑談はそれくらいにしておいて、トースターとハムエッグを二人分焼き、トースターの上にハムエッグを乗せる。
二枚の更に一つづつ乗せて、皿のうちの一枚は自分の机に置き、もう片方はサラダと共にお盆に置く。
そして私はそれを持って外に出て、隣の部屋の扉を叩く。

「静雄さーん!朝ごはん出来ましたよー!」

少しの時間が経ってからまだ寝巻き姿の静雄さんが出てくる。
まぁ、これも私の日課のうちの一つ。静雄さんの朝ごはん作りである。
隣に住んで仲良くなりだした頃、私から申し出たのだ。
聞くとそこまでよい物をとっているわけでもなさそうだったので、健康的にダメではないのかと思い作り始めたのだ。

「ん、いつもすまねぇな。」
「いえいえ、ちゃんと牛乳と一緒に食べてくださいよ。」

大家さんに「通い妻?(笑)」と言われたことがあるが、そんなわけあるか。
静雄さんのことが好きかどうか聞かれたら即答でYesと答えれる自信があるが、それは尊敬しているという意味である。
と、今日は与太話が多いのだが、そろそろ打ち切ろう。
自分の部屋に戻り朝食を食べて皿を洗う。
それから黒いパーカーを羽織り、家を出る。

「行ってきます」

これが私の【日常】。


――《日常というもの》

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