善と悪

□唐突な出会い
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さて、どうして今こんなことになっているのだろう。

「あのですね、折原さん...」
「ん?どうしたんだい?」
「私だって暇じゃないんですよ。特に今日」
「知ってるよ?」

なるほど、これは嫌がらせなのか、そうなのか。
ちなみに今、私は起きたばかりだ。つまり自分の家の中だ。
それなのに...何故起きたら目の前に折原さんの顔があるんだ。

「じゃあまずこの状況についてご説明頂きたいのですがよろしいでしょうか?」



そんな私、柚咲 紗夜とこの新宿の情報屋、折原臨也が出会ったのは数週間前。
いや、もしかすると本当はもう少し前に会っていたのかもしれないがそこは御愛嬌。
というわけで、少し過去を振り返ってみよう。


「んぁ〜...今日も特になんもすることないかな〜...」

そう呟きながら家に帰る準備をする。

「紗夜〜!帰ろうぜ!」

そう声をかけてきたのはつい最近までいわゆるカラーギャングに所属していた紀田正臣。
とある理由で辞めたのだが...本人は私は知らないと思っているのでご割愛。

「あーい、ちょい待ち」

一部の人には恋人同士だと思われているらしいが、絶対にない、うん。言いきれる。
正臣にちょっと待ってもらい、携帯を確認する。
よし、メールなし。

「おけ、帰ろ〜」


「最近紗夜ケータイよく見てるよな?恋人でもできたか?」
「あははー何それ嫌味かなー?」

正臣の軽口に対して棒読みで答える。
今の私と正臣との関係は、そうだな......
友達以上恋人未満というのが本当は一番近いのかもしれない。
しかし、ついこの間あんな事があった正臣はきっともう特定の誰かと付き合うことはない。
それに、私だって正臣にすごく重大な隠し事をしている。まぁ、きっと一生言うことはないんだろうけど。

「じゃあ今からナンパでも行くか!」
「いやまてどうやったらそうなるよ」

本当にナンパ好きだな......
呆れながらも着いていこうとすると、声をかけられた。

「紗夜ちゃん、久しぶりだね」

それは男性で、いかにもサラリーマンといった風の男性であった。

「あ、お久しぶりです」
「知り合いか?」
「ん。ちょっと待っててね」

曖昧な返事を残し、その人と路地裏に行く。
すると、親しそうであった男性は恭しい態度に変わり、朗らかだった紗夜の顔が厳しくなる。

「友達と一緒に居るところに話してきたんだから、よっぽどのことよね。何があったの?」
「それが...また奴に邪魔されたみたいで...」
「新宿の情報屋か...」

そして、そんな話をしている私はとあるカラーギャングのトップ。
父さんが率いていた〈リング〉というカラーギャングだ。
私の父さんと母さんは一年前に事故で死んだ。
そして、父さんの手紙でリングの存在を知った。
父さんは私にリングを解散させて欲しかったようなのだが、私はリングのトップを継いだ。
ネットでもたまに名前が出てくるリングを放っておくわけにもいかなかったのだ。
いや、本当はそんなだいそれた理由ではなく、父さんの形見のように思っていたのかもしれない。
最初はいくらか反感があったのだが、昔から父さんに習っていた色々な武術が役に立った。
ただ単に力でねじ伏せただけではない。何をしたかは言わないでおくが、今ではメンバー全員が私を慕ってくれている。
まぁ、リングの活動は滅多になく、全国にいる人員を使い情報を把握するだけに最近は留めている。
全国にメンバーがいるとはいい、やはり一番人数が多いのは池袋。そこの平和さえ保たれていれば私はいいのだ。
その為に何度かそういうグループを潰したことがあるけれど、この街にとって無害なグループには一切手を出していない。
しかし、それを壊そうとしている奴がいる。
そう聞いた私はその人物、新宿の情報屋について調べているのだが......

(情報屋、ねえ......)

「はぁ...今回のことばかりはさすがに私も動かなきゃいけないか......。わかったわ。また何かわかったら連絡頂戴」
「わかりました」

男はそう言ってお辞儀をし、私は正臣のところへ戻る。

「ごっめーん!!ちょっと用事できたから帰るわ」
「マジかよ!!最近付き合いわりーぞー!!」

そうブーブー言ってくる正臣に手を合わせて謝り、帰路に付く。

(新宿の情報屋...一体何者なんだろう......)

情報屋には少し、いやかなりいい思い出が無い。あの人物がもしかすると......
そう考え事をしながら歩いていたのが悪かったのだろう。人にぶつかってしまった。

「あ、ごめんなさい!!」

振り向くと、その人は黒いファー付きのコートを着ている人物だった。

「あぁ、大丈夫。全然いいよ」

笑顔を浮かべながらその人は言ったのだが、私は何故かその人の笑顔に寒気を覚えた。

(って、初対面の人に失礼か...)

「どうかした?怪我とかした?」
「あ、いえ、なんでもないです!!では!!」

じっとしているので不思議に思ったのだろう。そう尋ねられたのだが、特に何も無かったので心配させるわけにもいかず、そそくさと退散した。
その人が呟いた言葉にも気付かず。

「なるほど、あの子がリングの......」

――《唐突な出会い》

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