僕らのすべき事

□始まりの時。
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梅雨の湿気が充満した蒸し暑い教室に、彼女はやってきた。
長い黒髪に大きな目、鼻は高く、顔が小さい。
一般的には、可愛いという分類に入るのだろう。
「はじめまして。佐々木 珠利と言います」
少し上擦る声も、透き通っていて、女の子らしい。
クラス全員の視線を浴び、恥ずかしそうに顔を伏せていた。
「1年生の1学期に転校して来るしてくる人はあまりいないけど、これも何かの縁だと思っています」
確かにな、と雪は思ったが、口にする勇気など微塵もなかった。
「それじゃあ、佐々木さんは……。あ、言樹の隣がいいかな」
数秒固まった。……が、
『えぇっ!!いや、困る!』
心の叫びは届くわけもなく、佐々木さんは軽く会釈をし、こちらに向かってくる。
『だってほら、周りの視線が………やっぱり!!!』
クラスの男子から痛いほどの眼孔が言樹に突き刺さる。
嫌な汗が出てきた。
「先生っ!!」
言樹 雪は一生一大の決心をし、勢いよく立ち上がった。
「僕はっ」
「言樹君。」
思わず隣の席を見下ろすと、僕を見上げる佐々木さんと目が合う。
「教科書まだ持ってないから、見せてもらってもいいかな?」
上目遣いで見上げるその仕草に、僕の心臓は急速に高鳴り、目は瞬きを忘れた。
口はアホみたいに開かれたまま、そのまま机に突っ伏すように倒れ込んだ。
失神している僕をよそ目に先生は号令をかけ、教室から出て行ってしまった事を後に知った(1次限目の途中まで突っ伏していた為)。
隣人が僕を横目に薄く笑っていることを、知るよしもなく……。

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