ショート妄想

□らんまショート妄想『ミツコイ』
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「早乙女」

呼ばれて見上げれば、こうなる前には気づかなかった端正な顔が自分を見下ろしていた。

「…ん?」

「…いや」

そう言って横を向いた相手に、何とも言えず寂しさを感じて袖を引く。

そうすると、何もかも分かった様に、俺の手を横から握りこむ、その手が暖かい。

変態という事を除けば、悔しい位に彼は大人だった。

「好きだ…早乙女」

「っ…」

フェイントで言われた言葉に、思わず心臓が跳ね上がる。

再び顔を上げれば、なんの揺らぎもなく真っ直ぐに見つめてくる瞳に、情けなく動揺している自分が映る。

そんな自分を九能は何も言わず抱き締める。


こんな事は誰にも言えず、いつも二人の逢瀬は彼の部屋だった。

彼の部屋でさえも、小太刀に見つからない様にして、息を潜める。

「好きだ」

「…一番じゃない癖に」

「お前もな」

「ああ…」

嘘。

本当は、いつの間にか九能の事を好きになっていた。
他の誰よりも。


「…そろそろ帰れ。もうすぐ小太刀が帰ってくる」

「…帰りたくない」

「…早乙女」


咎める様な声にぐっと苦いものが胸に込み上げる。


「嘘。あんたを困らせたかっただけ」

「…送ろう」

「いらねぇよ」

九能から離れて急いで屋敷をでた。

「馬鹿野郎」


俺の大馬鹿野郎。

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