隣の君に伝えたい

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今日もいつもと変わらずはやくに学校に来て体育館を覗いていた。
続々とクラスメートが入ってくると今度は先生が入ってきてHRを始めようとする。それと同時に青峰くんが急いで教室に入ってきた。
どうやら今日は遅刻のようだ。すみませんと笑いながら自分の席についた。そして今日も互いに挨拶をしたところまではいつもと変わらなかった。
いつもと違ったのは、

「なぁ、桃江もバスケ好きなのか?」

青峰くんが話しかけてきたことである。
初めてのことで驚きを隠せなかった私はすぐに返答することができなかった。


「あ、いや昨日練習見に来てただろ?最近そういうやつ増えてきたけど、黄瀬目当てのが多くてさ。けど、桃江はバスケを楽しんでたっていうか、なんていうか…。」


頭をガシガシと何だか気恥ずかしそうにかさ、私の方をちらりと見た彼は、私の反応を伺っているようだった。


『うん。バスケ、好きだよ。』


正確には青峰くんのバスケを見ていることが、なのだが、好きだと言った時の青峰くんの顔があまりにも嬉しそうだったのでそんな言葉は飲み込んでしまっていた。


「バスケって面白ぇよな!」

私よりもはるかに身長が高く、体格もがっしりしていて、同級生とはまるで思えない彼だが、こうして笑うところを見ると幼い男の子とそう変わりなかった。


この日から青峰くんと話すようになり、放課後には練習を見ていくようになった。
相変わらず女の子がたくさんいるけれど、すぐに帰れるように端の方にいる私を青峰くんは見つけてニカッと笑いかけてくれる。何だか恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
時々、練習後の自主練習も見学させてもらったのだが、その時は普段の練習以上にキラキラしているように見え、1on1している時には時に彼の笑みが絶えたことはなかった。


「桃江、これ見てろよ!」


そう言って彼は二度、ボールを床へ打ち、そのまま取りぶりをしながらゴールへ向かって走った。途中、相手がいることを考えてかわしながら進んでいき、フリースローラインで止まったと思った時、ボールを思い切り地面に打ち付けた。
高く上がったボールは、いつの間にかゴールの近くまできてジャンプしていた青峰くんがゴールポストへと叩き入れた。


「ふぅ……。一人アリウープだ!!」


青峰くんはどうだとでも言いたげな表情をしていて、それが私にはなんとも可愛らしく思えてしまい、フフッと思わず笑ってしまった。


「ムッ。桃江も見てねぇでやってみろよ!」


少しすねてしまった彼をよそに、再び私はクスクスッと笑ってしまった。
そんな私に持っていたボールをヒョイッと私に投げた青峰くんはやってみろよ、と挑発的な顔でフフンッと笑っていた。
ボールをあたふたと受け取りながらよーしとゴールに狙いを定めてボールを放った。しかしそれは入るどころかリングに当たることすらなく、床にだんっと落ちてしまった。


「………ブッ、アハハハハハッ!!」


少しの沈黙の後、青峰くんは溢れ出してきた笑いをこらえきれなくなり、大笑いしていた。


「ヤベッ、腹…いてぇ……ククッ」


お腹を抱えて笑いだした彼を見て、恥ずかしさを感じるも笑顔の彼は私にとって嬉しいもので、なんだか元気になるような気がしていた。


「桃江は運動全然ダメなんだな。」


未だに笑い続けている彼は、私が放ったボールを拾い、ヒョイッとゴールに放り投げた。そんな風に投げても入るなんて、やっぱりすごいなぁと改めて思っていると、青峰くんがこちらを向いたので、私も青峰くんの方を向いた。


「今度さ、練習試合があるんだ。来てくれねぇか?」

ウンと頷く以外の選択肢を私は持っていなかった。
頷く私を見た彼は、ヨシッ、じゃあ今週の日曜日にここの第四体育館な、と嬉しそうに誘ってくれたのだった。
 

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