隣の君に伝えたい

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私と青峰くんの接点は、隣の席というだけだ。
隣にいるから挨拶されるのであって、隣の席でなかった時期は、挨拶どころか目があうこともなかった。


「どうしよう、奈々。」
「どうしようって…どうしたいの、菜月は。」


青峰くんとどうしても仲良くなりたい私は、友達に相談していた。
挨拶をした後は幸福感に包まれ、青峰くんを見ているだけで楽しく、嬉しくなるのだが、休み時間になるともちろん青峰くんは友達のところに行くため、いなくなる。
それは青峰くんだけではないことはわかっているのだが、よくわからない悲しみが私を襲うのだ。
別に彼氏彼女の関係でも、そうなりたいと思うほど自惚れてもいない。


「しょうがないなぁ。なんとか考えとくから、放課後開けておいてね。」

ありがとう、と自身の顔がパァッと効果音がつくほどに明るくなったのがわかった。
これで青峰くんと少しでも仲良くなれるかもしれない。

そう思っていたのに…




『い、いやだよ!恥ずかしいよ!!』
「はいはい、わかったって。でも菜月が行動しなきゃ何も変わらないんだから。」


そんなことはわかってはいたけれど、まさかいきなり青峰くんのいる体育館に行くことになるなんて、想像もしていなかったのだ。
いつも上から少ししか見えていなかった練習風景。
もちろん嬉しさもあるけれど、やっぱり気恥ずかしさの方が上だ。
なんて思いながらも、奈々はズルズルと私を引きずりながら体育館の方へと足を運ばせていた。




キュッ   キュッ

そんな音が絶え間なく続いている。

勉強ももちろんだが、スポーツにも力を入れている抵抗中学校は幾つかの運動部が全国常連だったり、個人だと関東上位独占だったりしている。
もちろん、みんなハードな練習を積んでいるからこその、その成績なのだが、そんな運動部の中でも群を抜いてハードなのがバスケ部だ。
部員が100にに条らしく、一軍から三郡まで分かれて練習している。レギュラーどころか一軍に上がるまでが大変なそこに、青峰くんはいた。


『すごい…!』


ただその一言に尽きていた。
なんとも青峰くんらしい自由な動き。すごく早く、誰よりも速くボールを運び、リングの中に入れていく。
そして何より楽しそうに。

フッと青峰くんと目があった。
ニカッとまだ幼気の残る笑顔でこちらにそれを向けたかと思うと、誰かに合図を送った。

パッとボールをもらったかと思うと、さっきよりも速いスピードで走り出し、タタッと跳んだ。
羽でも生えているかのように、高く、高く。
そして、ガンッと盛大な音を立ててリングに叩きつけた。
そんな姿に、私はただ見惚れていた。

再び私の方を見ると、先ほどと同じようにわたい、練習に戻っていった。

「来てよかったでしょ、菜月。」
『うん、ホントによかった…。』



その後もしばらく見ていたが、さすが見時間が遅くなりそうだったので、青峰くんに、もう帰るね、とジェスチャーで示すと、伝わったのか手を振ってくれた。


「それにしてもすごかったね。」

最後まで付き合ってくれた奈々と先ほどのことを話しながら、いつもよりも暗い帰り道を歩いていた。

『うん、すごかった。』

あの青峰くんの動きを思い出しながら、ほうっと息をはいた。

「でも、あの女子の歓声もすごかったよね、ある意味。」

そう、なんどもなんども湧き上がる歓声は、まるでアイドルを追っているファンの声そのもので、時々それにビクつきながらも練習を見ていた。

そんなにバスケ部って人気があるんだ。
ボソッとつぶやいた私の言葉に奈々はびっくりしていて、驚きを隠せていなかった。

「本気で言ってるの!?」

何のことを言っているのか、わからなかった。もしかしたら、応援部みたいな部活があって、その練習だとか…とも思ったが、どうやら違うようだった。

「隣のクラスの黄瀬涼太!あの人がバスケ部に来てからはずっとあんな感じなのよ!?」


あとで知ったことだが、その人はモデルをやっているらしく、入学した時から女の子の取り巻きがすごいらし。

「まあ、菜月はずっと青峰くんのことしか見てないもんね。」
『そ、そんなことないよ///!!』

でも黄瀬くんか。
女の子たちが一軍の体育館で騒いでいたから、一軍の選手なんだよね。
かっこよくて、スポーツもできたら、そりゃモテるよね。

でもやっぱり青峰くんが一番輝いてるきがする。
だってバスケをしている時は、いつも以上にかっこよかったし…。


「おーい、菜月?……だめだ、完全に一人の世界に入ってる…。」
 

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