階段を上るアシオト
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今度は、キセキ五大国のパーティーが、桐皇帝国の広場で開かれるという電報を受けとった。しかも今回は、全員が必ず出席するという布令付きで。出席しなかった家の者がいた場合、1人につき、100万の出費をしなければならない。
これにはさすがの継母たちも、琴葉を出席せざるをえなかった。
彼女たちは、何よりお金が大事なのだ。そのお金を琴葉のためになど払いたくもない、と言う魂胆だった。しかし、もちろん琴葉に彼女らが着飾るものを用意するはずもなく、いつもの服装でパーティーに出ることになった。
広場には、目が回りそうなほどの人の数。そして、城で開かれたパーティーと同じか、それ以上に豪華な食事が並べられていた。
すると琴葉のお腹がグゥ…と小さくなった。誰かに聞かれていないだろうかとあたりを見たが、そんな様子はない。ほっと息を吐き、一枚のお皿を取った。
誰も私を機にすることはないだろう。こんな格好をした私よりも、みんなは初めて揃ってみる五大国の皇子たちの方に釘付けなのだ。
そう思っている琴葉は、彼に会うことはもう考えていなかった。こんなに人が多くては、まずにつけることは不可能だと考えていたからだ。それにあれから1ヶ月以上も経っていて、相手は覚えていないかもしれない。そんなマイナスの考えばかりが浮かんできたので、もう楽しむことだけを考えたほうがいいと思って、そうしているのだ。
次々と食事をとり、ほとんど人のいない広場の端の方で食べることにした。
(やっぱり、一般の家で作るものより、格段においしいな。)
ここでもやはり、食べたことのない食事ばかりで、琴葉は顔がほころんでいた。こういうものは自分でも作ってみたいという気にもなるが、まず材料からして手に入れることはできないだろう。
もうすでに食べ終わったお皿を置き、次のお皿に乗っている食事に手をつけた。
(あぁ、やっぱり、どれもおいしい……。)
前回と同じように、しっかりと味わって食べている琴葉には、周りの騒音は気にならなかったが、1人の男に対しては違った。
「お前は今回も、こんなところにいるんだな。」
ひどく懐かしいような気がした。
いや、実際は一ヶ月以上も聞いていなかったのだが、1年、へたをすれば10年以上経っているのではという不思議な感覚に浸っていた。
ゆっくりと近付いてきた彼に、琴葉は拒む様子もなくその様子をじっと見つめていた。男の服装はさも立派で、紺というよりももう少し黒よりの肋骨服、その後ろにはマントがひらりとなびいていた。大きな懸章と飾緒(しょくしょ)、金モールは目立つものの、彼の着こなしはそれらがまるで静かになったように一つ一つが主張し合うことはない。
彼のところだけ、周りとは違う何かがあるような気がした。
「前回の続きだ。お前、名前は?」
そう、問われた時、琴葉は自然の成り行きのように答えていた。
『杉本……琴葉、です。』
「琴葉……俺についてきてくれ。」
すると、大輝、もとい青峰はフッと表情を緩ませ、琴葉の手を引いた。
連れられている途中、終始無言だったが彼らだが、一度だけ、青峰が口を開いた。
「俺は……青峰大輝。この国の皇子だ……。お前は、どう思う?」
少し低くはなったが、それでも不安を隠しきれていないような声に、私はどう返せばいいのかわからなかった。しかし、これで伝わるのかどうかはわからないが、琴葉はそれに応えた。
『私は、この間のパーティー、すごく楽しかったです。』
ドキドキしながらも、そういった琴葉の返答に納得したのか、そうか、とただ一言だけ答えた青峰の優しい声に、琴葉は安心していた。