階段を上るアシオト

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琴葉は父の知人と会ったことが一度もなかった。というのも、父の葬式には身内どころか私と継母たち、そして近所に住んでいる人たち数人しか出席しなかったのだ。
父親の死を悲しむのは私しかいないのかと、悲しんでいた時もあった。



「君のお父さんは、僕にとっても大切な人でした。そんな彼が、僕に君を託したんです。今までよく耐えてきましたね。」




ポンポンと頭を撫でられ、懐かしい感覚に陥った。
父を知っている、大切だと言ってくれる人。継母たちとは違い見返りを求めない、とてもいい人なのだろう。ふわりと笑って見せた顔は、とても温かいもので、久しく見なかったのもだ。母が亡くなってからは、父も本当の笑顔で笑ったことがなかったのだから。





「琴葉さん、あなたももう一人立ちできる歳でしょうし、僕は君に家と少しの資金を渡そうと思いますが、どうですか?」



尋ねてきた彼は、それが一番ベストというよりも、普通に考えればあまりにも豪華すぎて、断る理由も見つからないくらいのプレゼントなのだろう。しかし琴葉にとっては違っていた。



『すみません。私がこの家を手放してしまったら、父と母との思い出が全てなくなってしまうんです。』



最近、継母たちのお金の浪費が激しすぎる。私が家を出たら、たちまちこの家も売りに出され、お金に変えられてしまう。
家やお金をもらえるのはありがたいが、受け取ることはできない。



「そうですか……では、琴葉さんが今望んでいるものは、なんですか?」



どうやら彼は琴葉の望みを叶えてくれるようだった。




『私の、望み…』



今まで、言ったことも口に出そうと思ったこともなかったワガママ。少しだけ、それを出していいのなら…
琴葉は少しためらっていたが、意を決したかのように口を開いた。





『自由を味わいたい…私を、パーティーに連れて行ってもらえますか?』


彼はニコリと笑った。
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