階段を上るアシオト
□3
2ページ/3ページ
ガチャ、と扉の音が聞こえるまで、琴葉は夜になっていることに気付かなかった。
いや、正確に言えば、日が暮れていることさえ気付いていなかった。
彼女らが家を出てからリビングに出ると、なんだかこの世に誰もいない、一人の世界のように感じる。寂しさのような感じもするが、張りつめていたものがぷつんと切れたようで、落ち着いた。
いつもよりゆったりとした状態で言われていたことをこなしていたが、今までの疲労がなくなるわけではない。気持ちを落ち着かせたことがまずかったのか、目の前が霞んできた。
(あ、ちょっとまずいかも……)
足元もふらつき、立つこともままならなくなった体は傾いた。
そしてそのまま倒れる
はずだった。
衝撃に備えて閉じていた目を開き、パッと後ろを見た。
「どうも。」
声も出ないままに体制を立て直され、大丈夫ですか、と声をかけられた。
気がつけば、ありがとう、と口にしていた琴葉は、自分の声に驚いたが、彼がにこりと微笑み、よかったです。と言ったとたん、まるで金縛りにでもあっていたかのように動かなかった体は、解放された。
『あの、あなたは……』
細々と探るような聞き方で、申し訳ないと感じたが、誰もいなかった部屋に急に現れたのだ。用心深くもなる。
「黒子テツヤと言います。急に現れてすみません。倒れてきそうだったので、つい体が動いてしまいました。」
丁寧に自己紹介をされたのは構わないのだが、私が聞きたいのはそこではない。そう思いつつも、自分も自己紹介をした。
『黒子、さん。あの、どうしてここに?』
「僕は、魔法使いです。」
魔法使い?
そんなバカな。
そんな人たちがいるわけがない、と初めは思っていたが、彼が魔法使いでなければ、この現状を説明することができない。急に現れて、私を支えてくれたのだから。
ふと気付いたが、彼は私の質問に答えていない。
彼の方に顔を向けると、読み取ることができない表情だった。
黒く深いマントを羽織り、黒い帽子が彼の影の薄さを際立たせてるとでも言うのか、気をぬくと見失ってしまいそうで、そんな彼には鍵のキーチェーンがワンポイントとなって腰についていた。
「君のお父さんに頼まれて、ご褒美を与えに来たんです。」