大切なあなたへ
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いつもの公園だとあの人に会う確率が高いため、少し遠い、別の場所へと来ていた。
しかし公園には先客がいたようで、ダムダムとボールをつく音が聞こえてきた。
今はまだ部活の時間帯だ。小学生くらいの子かな、と思いつつ公園の隣にあるストバスコートへと足を向けた。
しかしそこは誰もいなかった。
(あれ、トイレにでも行ったのかな‥‥?)
そう思い、中に入った。
「佐倉さん?」
『テツヤ……君?』
中学の同級生で、元チームメイトだった黒子テツヤ君だ。
休憩していたのか、出入り口から右手のフェンスにもたれ掛かっていた。
『何でここに?』
「佐倉さんこそ。お久しぶりですね。」
ポーカーフェイスでよくわからないが、テツヤ君も驚いているようだ。
「桐皇に行ったんですね。」
彼が退部してから、私達は一度も会っていない。
つまり、互いに行った高校は知らないと言うことだ。
『テツヤ君は誠凛高校だったんだ。それに……また、始めたんだね。』
彼の手には使い古したバスケットボールがあった。
『はい。でも、青峰君との試合。負けちゃいました。』
私が色々と問題を起こしているときに、IHが行われていたようだ。
誠凜はトリプルスコアで桐皇に負け、さらには他の2校にも負けたため、IH出場を逃した。
しかし、テツヤ君の顔を見る限り落ち込んだ様子もない。
むしろ、スッキリしたような顔をしている。
「次のWCでは勝ちます。勝って、日本一になります。」
もう、吹っ切れたってわけだ。
「今日は早く終わってしまったので、新しい技を練習していたんです。………見たところ、佐倉さんもバスケしに来たんですよね?相手してもらってもいいですか?」
テツヤ君の目標。
それは、私の夢をひとつ叶えてくれるもの。
だったら、私も手伝いたいんだけど………
『私、数日前からマネージャーになったの。だからゴメンね?』
テツヤ君は目を丸くさせて、本当に驚いていた。
そう。私がマネージャーになったということは、他校のバスケ部。つまり、テツヤ君とは敵になるのだ。
「桐皇に佐倉さんですか………。ちょっと、いえ。かなり手強くなりますね。」
えっ、そっち?
「ありがとうございます。」
えっ、何が!?
「クスッ 黙って僕の情報を貰うのが嫌だったんですよね?」
『え、あ、いや。』
テツヤ君が何考えてるのかわかんないよ。
「大丈夫です。それでも勝ちにいくんで!」
こういうところ、すごく尊敬する。
それに、なるべく私のプライベートには触れないように話してくれてるとこも。
『私、テツヤ君好きになればよかったな。』
ボソッと呟いたので、聞こえてないと思っていたが、人通りがなかったため、聞こえてしまっていた。
「ダメですよ。青峰君に殺されてしまいます。」
『そうだね。青峰君に殺されちゃうのは嫌だなぁ。』
青峰君、テツヤ君のこと尊敬してたしね。
私なんかがテツヤ君好きになったら迷惑だよね。
「い、いえ。そっちじゃなくて…………え?名前が、何で‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥いえ、何でもありません。」
『じゃ、やろ?』
「はい。」
またウジウジ考えてたら、迷惑になるしね。
バスケして、もう忘れよう。