大切なあなたへ

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全中も終わり、緊迫した空気がなくなった。


まあ、もともとレギュラー争いが激しい帝光中には張りつめた糸はあったけれど。
それでもやっぱり、優勝したという感覚がまだ残っているのだろう。


「もっと気を引き締めろ!全国終わったからって緩めてんじゃねぇぞ!!」


3年生が引退する時期となるため2年生の虹村先輩が主将を、征十朗君が副主将に任命された。

1年生にして副主将を任免されたのは初めてなことなので、副主将は2人となった。


「おい、桃井はどこに行ったんだ?さっきから見当たらないが。」

征十朗君がさつきちゃんがいないことに気付き私に聞いてきた。


『さつきならトイレに行ったけど‥‥‥‥‥‥‥‥あれ?』
「桃井がいなくなってから30分以上は経過している気がするんだが。」

そう。さつきは30分くらい前に、トイレに行ってくると言って校舎の中に入っていった。
それっきり、私も見ていない。


『ちょ、ちょっと探しにいってくる!!』

私は心配になり、探しにいこうとした。
だけど、それを止めるように征十朗君が私の前を塞いだ。


「他の奴も連れて行く。これだけ遅いのはさすがに不自然だ。何かあったのかもしれない。」

『な、何かっ、て‥‥‥‥?』


征十朗君の言っていることはいつも理にかなっている。
だから、一気に不安になった。
さつきちゃんが危険な目に遭っているのかもしれない。
遠回しではあるが、そう彼は言ったのだ。


「すまない、不安にさせた。すぐに探しにいきたければ、青峰を連れて行け。お前にとっても心強い味方だ、幼馴染みだろう?」


そのまま、”青峰!”と呼び寄せた。

はじめは、練習を中断させられて不機嫌そうにこちらへと来たが、さつきちゃんが30分前からいないことを知らせるとさすがに心配になったのか

「行くぞ、佐倉!」

と私の腕を引っ張り、探しに出かけた。


ーーーーーーーーーーーーーー


「さつきのいる、場所とかって、何となくでも、いいから、分かんねぇ、か!?」

息がすごいキレてる。
練習を中断させられたと言っても、ほぼその直後にまた走っているのだから、息がキレないわけがない。

『わ、かんない、よ。』

どうしよう。
私がもっと早く気付いてれば‥‥‥‥‥‥!!!

そんなことを思っていれば、大輝君が急に止まった。

『??』

すると、少し汗で湿ってはいるが、それでも暖かい手が私の頭の上にポンッと置かれた。


「大丈夫だ。落ち着け、な?」


それだけで安心させられた。

さつきを探して少し経つが、それでも時間が経つにつれて不安になっていく心は大きくなっていくばかりだった。


「さつきはちゃんと見つかるから。そん時にお前がそんな顔してたら、それこそあいつが心配そうな顔するぞ?」
『‥‥ん。』
「っよし、じゃあ今度はこっち探し行くぞ!」

大輝君が頼もしく見えた。

彼だってさつきちゃんの幼馴染みだ。
それを言うなら、彼の方がずっとさつきちゃんを知ってる。
昔からずっと。

だから、心配してないわけじゃない。
むしろ焦っているはずだ。
だけど、私に励ましの言葉をくれた。
背中を押してくれた。


いつもはふざけたり、バカ言ったり、バスケ、バスケ!!ぐらいしか言わない。


そんな彼がすごく輝いて見えた。
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