階段を上るアシオト

□6
1ページ/3ページ




パーティーから数日が経った。
あの後、お開きとなったパーティーから帰ってきた継母たちは怒っていた。そして、皇子に見初めてもらうどころか話すことさえできなかった怒りの矛先は、琴葉に向いたのだ。ただでさえ多かった家事の量はさらに増え、寝る時間さえ惜しむほどになってしまった。

そんな中、思い出すのはあの夜のこと。
あの時間がずっと続けばいいのにと思うほど、琴葉にとって楽しかった時間だったのだ。そして、彼のことも考えるたび、思い出すたびに、溢れ出してくる思いを胸にそっとしまい込んだ。こんな想いになったことがなかった琴葉だったが、なぜかこの想いを外に出してはいけないと思っていたのだ。










「ねぇ、聞いた?皇子の家臣たちが一軒一軒、片方の靴を持って訪ねているらしいわよ。」



洗い物をしている時に、お姉さんが噂を耳にしたと、2人に言っていた。皇子が人を探しているらしい。



まさか、まさかと思いながらも、お姉さんに尋ねた。




『皇子の…名前はなんとおっしゃるんですか…?』

「何、聞いてたの、あんた。そんなこと聞いてどうするのよ。」



もちろん怪訝な顔をされたが、いえ、なんとなく気になったので、と答えると、不思議に思われることもなかった。




「たしか、大輝。青峰大輝だったかしら。」

「名前なんてどうでもいいじゃない。そんなことより、その靴を履いて、ぴったりだった人が、王子と結婚することになるのよ!?」

「私たちのところにももうすぐ来るらしいわ!急いで準備しなくちゃ!!」



そんなことが本当にあるのか。いや、偶然に決まってる。皇子の名前と大輝さんの名前が同じことだってあり得る。そうだ、皇子があんなところにいるわけがない。でも、もし、彼が皇子なのだとしたら、靴がガラスの靴だったとしたら、私も履けば、会えるかもしれない。

あの人に、もう一度、逢いたい。




そして、皇子の家臣たちが来たのは、数時間後だった。




琴葉は風呂場に閉じ込められていた。彼女らは、もしも、という可能性を無くしたかったのだ。


「これで全員か?」

「いえ、この家にはあと1人娘さんがいたはずですよ。」

「あ゛ぁ゛?まだいんのかよ。」

「す、すみません!!」

「あの子はパーティーには出ていませんし、今は出かけていますので…」

「じゃあ、いいっすよね、今吉さん!?さっさと終わらせて次行きましょうよ!!」

「全員確認せなあかんって言われてたけど、しゃーないか。」

「いいのか、今吉。」

「パーティーにも出ていないってゆうし、大丈夫やろ。そんじゃ、1人ずつこの靴履いてもらおか。」




椅子に縛られ、口にはテープ。こんな状態で何もできるわけがなかった。

彼の家臣たちに伝えられることなど、彼らが私を探さない今、何もない。私はもう、大輝さんには会えない。

家臣たちが継母たちに靴の確認をしている間、琴葉はもう、諦めてじっとしているだけだった。


あの時以降から、彼に会うことは、神が許さないというお告げなのだろうと、琴葉は思うようにしたのだ。そうでもしなければ、悲しみに暮れてしまう、そう思ったのだろう。


黙々と続ける仕事には、何の感情もわかなかった。
そんな状態は、1ヶ月も続くこととなった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ