階段を上るアシオト

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5日間はいつも以上に大変だった。
ドレスに似合う髪飾りやアクセサリー、作ることが出来るものは全て作らされ、家事はもちろん彼女たちの身の回りの世話全てをまかされていた。





「今日の夜が楽しみだわ!」


「早く夜にならないかしら。」


「二人とも、絶対に皇子様に見初めてもらうのよ!」





もちろんよ、と王子と結婚することだけを頭に想像し、意気込んでいる彼女らを横目に、4枚ある内の一つの招待状を手に取った。特に何をするでもなかったが、自分の手の中にある紙を、琴葉はただ見つめていた。





「何?あんた、まさかパーティーに行きたいとか言うんじゃないでしょうね。」




頭上というよりも少し高い位置からの声に、ハッと顔を上げると、お姉さん2人がこちらを睨んでいた。




『い、いえ、そういうわけじゃ‥‥』




そう、本当にただ、眺めていただけなのだ。
もう行くことは諦めている。

初めに抱いた感情は、ちょっとした願望。


しかし、一人のお姉さんに言われた一言で、自分がどれほどまでに単純なのか、琴葉は知らざるをえなかった。





「行ってもいいわよ。」





淡い期待を、抱いてしまったのだ。




今日だけでも自由になれる。そう思った。
しかし、そんなものは初めから持ってはいけなかった。




「ただし、そこにおいてあるリストのことを全て終わらせてから、だけどね。」



手紙の下に隠れていたが、もう一枚、たくさんの文字が書かれた紙がおいてあった。
これを全部こなすとなると夜中までに終わるかどうか。
とてもパーティーには間に合わない。

行けないように、彼女らが膨大な仕事を用意したのだろう。




「それに、そんな姿で行けるものなら行くことね。」


言われて自分の体を見てみると、それはもうぼろぼろで、忙しくて手入れも出来ていない髪はぼさぼさ。唯一の救いはお風呂に入れさせてもらっていることだが、それも1週間に1,2度程度。そんな時間さえ与えてもらえないほどに、琴葉は忙しかったのだ。



「そんな姿でパーティーに行ったら、笑い者ね。」



3人に笑われ、自分が恥ずかしくなった琴葉はパタパタとリビングを出て、自身の部屋へと入っていった。




(お姐さんたちは、行けないって分かってて言ったんだ。期待なんか、しなければよかった。)




変に期待してそれを打ち砕かれるよりも、初めからそんなものはないと、諦めていた方が気持ちはずいぶん楽なのに。

いつも通り、いつも通り‥‥‥‥

そう思いながら家事をこなさなければ、もう崩れてしまいそうなくらい精神的にもボロボロだった。
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