階段を上るアシオト
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「そこにある洗濯物、今日中に乾かしておきなさい。」
「今日は私、ビーフシチューが食べたいわ。」
「私はポトフがいいわね。」
「コンソメのパスタスープお願いね。」
「あぁそうだわ。私の部屋、触らないで掃除してちょうだい。」
『はい、分かりました。』
父が亡くなってからの彼女らの態度はあからさまになった。
私のものだった家具や服、そしてお金までもを我が物顔にして使っている。そして父が亡くなったときも、悲しむ様子は一切なく、むしろ喜んでいた。
私はいつも通り、彼女らの命令を聞いていた。
本音を言えば、辛い。しかしそんなことを言おうものなら、たちまち私はこの家から追い出されてしまう。服や食事を与えられていないことよりも、この家を失うことの方がよっぽど怖い。
この家は父と母の思い出がたくさん詰まった、大切な家なのだから。
父と母との思い出の品は、他にもたくさんあった。しかしそれらも、彼女らの手によってほとんど全て売られてしまった。
忙しく動いている手を止めることなく、少し、空を見上げた。
(どうか二人は、私のことを心配せずに、仲良く一緒にいてください。)
今はもう会えない、二人に。
切実な願いを、空に届けるために。
次は、お姐さんたちの部屋の掃除を。と、やっと終えて軽くなった洗濯物のカゴを持って家の中へと戻っていった。