大切なあなたへ

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うそだ‥‥‥‥
だって、だって。

「あん時だって、さつきを連れてった犯人に腹は立った。大事な幼馴染み連れてかれりゃ、誰だってそう思う。

でも、それがさつきじゃなくて、お前だったらって考えたら、殺したくなるぐらい怒ってた。だから、お前に触れたあいつに手加減なんて出来なかった。」
「ぅっ‥‥ヒック‥‥‥‥」


『体育館んときのは‥‥‥‥あれは嫉妬だ。嫉妬に任せてお前に怒鳴り散らしちまった。それは悪いと思ってる。

赤司にも、テツにも名前で呼んでる上に、火神にまでって思った。なのに俺には”青峰君”、だしよ。』
『ヒック‥‥‥‥ヒック‥‥‥‥‥‥』


涙が止まらなかった。
青峰君がこんなに思っててくれたなんて知らなかった。
ましてや私を好きだったなんて。


「ずっと、好きだった。気付いたのは小学校くらいん時だけど、多分初めて会ったときから惹かれてたんだと思う。」


そんなにも前から‥‥‥‥
ずっと、傷付いてたのかもしれない。
私が取ってた態度で、青峰君がどれだけ‥‥‥‥


「なぁ‥‥今はどう思ってんだ?手紙に書いてたのも”過去形”だった。お前が言ってた事だってそうだ。佐倉は俺の事どう思ってる?」
『‥‥ヒック‥‥‥‥‥‥ヒック』


そんなの決まってる。
ずっと、ずっと、私の気持ちは変わらなかった。
青峰君が変わっても、青峰君と離れても、青峰君に拒絶されても。


『す、きだよ‥‥‥‥ずっと、好きだったよ!!』


やっと伝えられた。
伝えたくても、伝えられなかった想い。
今やっと、青峰君に届けられた。

「俺もだ。」


クルリと向きを変えられ、青峰君と向かい合わせになった。
フッと微笑んだ青峰君を見て、涙でぐちゃぐちゃになった顔を微笑ませた。


『あおみねく「大輝だ。」』

『大輝君‥‥‥‥。』
「‥‥‥‥はぁ、違ぇよ。”大輝”だ。君なんていらねぇ。他の奴と同じなんて、嫌だ。」


一度だけ、涼太君に”涼太”でいいっス、って言われた事があった。
私はそれを断った。
大輝君とさつきちゃんを名前で呼んでいないのに、他の人を呼び捨てで呼ぶのが、何故か嫌だった。

初めて大輝君たちの名前を呼ぼうとした時、アメリカでは名前を呼び捨てだったが、日本では違うと母に聞いて、二人に嫌われないよう、”くん”と”ちゃん”を付けたのだ。


『だい、き。』
「晴香、好きだ。ずっと、これからも。」
『うん。』

ギュッと抱きしめる大輝に応えるように、私も抱きしめ返した。



「”アメリカエアラインKB831便、ロサンゼルス行きにご搭乗ののお客様は、56番ゲートにお越し下さい。”」



『あ‥‥‥‥』
「行くな。」

アナウンスが聞こえて、抱きしめていた腕を緩めた。
しかし大輝は離すまいと、さっきより強く抱きしめた。


『でも、間に合わなくなっちゃう。』
「アメリカになんて行くな。家がないなら、俺ん家に来い。荷物がないなら、貸してやる。だから、行くな。」


正直、私も行きたくなかった。
青峰君が私の事を好きだとわかって、決心していた心が壊れたのだ。
しかし、向こうでは父も待っている。
飛行機の席だってもう取ってある。

行かなきゃと思っているのは私の頭。
行きたくないと思っているのは私の心。

その二つが限りなく揺れ動いている。

「私はもう行くわよ。晴香は元気にしてなさいね。」

荷物も預け終わり、戻ってきた母が言った。
私は残れ、という意味なのだろうか。


「離れてたから話は聞こえてなかったけど、何となく察しはつくわ。お父さんだって、許してくれるわよ。」

手に持ったカバンを肩にかけ直し、後ろへと向き直した。


「大輝君、晴香をよろしく頼むわね?大輝君だったら、安心して任せてられるし、仲良くしなさいよ。」
「当たり前だ、大切にする。」

「それじゃあね。」

母は手をひらひらと振らせてゲートの方へと歩き出していった。

『Mom!! Thank you and sorry for sounding so selfish. It was nice to see you!!(お母さん!!ありがとう、我儘言ってごめんね。元気でね!!) 』
「You take care too, and keep in touch. Bye now.(あなたもね。連絡してよ?じゃあね。)」



母の背中を見えなくなるまで見送った。
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