依存している。

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『ハァ…ハッ、』




己の切羽詰った呼吸があたりに響くのが分かるほど静かな島だと思った。
無慙にも皮一枚で繋がっている右手から溢れる血は、地面に落ちるとそれを合図にするように蒸発して消えていく。
ぷらぷらと揺れる右手は比喩ではなく、裂けるまで引っ張られたものだ。
肘の関節の部分は離れてしまい、肉も千切れ、皮も少しひっぱれば取れてしまう。
蒸発していく血や、徐々に繋がっていく骨や肉や皮を静かに眺めるアルトは心中で悪態をつく。



――視程、なんて簡単な仕事じゃねェよこりゃあ…。

――七武海がいるなんて聞いてねェ。



傍にあった木に腰掛け、再生しきった右腕を撫でながら今の自分の状況を考える。


地から這い出るゾンビ。
喋る木や動物。
王下七武海。
影。
吸血鬼。


自分の体力が限界に近づいていることを知り、アルトはため息を吐いた。
驚くほど強い再生能力があるからといって、痛みを伴わないわけではない。
常人が怪我をしたときと同じ痛みを味わうのだ。
もう何日にも渡る吸血鬼との殺し合いに終わりはあるのかも定かではなくなってきた。
相手にも確実にダメージは与えているが、それでも自分の方が押されているのが事実。



『あ〜、きっついだろこれ…』



思わず声を漏らしてしまう。
孤独との戦いという精神的苦痛から吸血鬼との戦いという肉体的苦痛まで、全てを味わっているアルトはボロボロだった。


――島の雰囲気恐いし、ゾンビいるし、人いないし最悪っっ


服は体と共に再生できる。
おなかが空いているのは我慢するしかない。
少し気を抜いただけですぐに死んでしまうこの状況では体力は減っていく一方だった。


ゾンビの弱点を知らなければならない。
だが今の自分は“日の光”という普段なら弱点にならないようなものが死を決めるものになってしまっている。
一日の半分しか使えないアルトにはとても辛い話だった。


腰掛けた木がミシミシと音を立てる。
なぜか座っていたアルトが後ろに転倒した。
どうやらこの木はゾンビだったようで、意識を持って動き出したために転んでしまったようだった。



「ん?まだいたの?」

『……てめェ…』



寝転んだ自分を見下ろす、黒い瞳の男。
長く伸びた黒髪を重力に従わせているため、アルトの顔に男の髪の毛がかかる。



「帰ったほうがいいんじゃないの?君じゃおれには勝てないよ」

『お前がおれなら分かれよ。「そんなことやってみねーと分からない」ってさ』

「君もおれの本体なら分かれよ。「無謀なことはしないほうが特だ」ってさ」



左目の周りを囲むような大きな縫い傷に、避けた口を治すような縫い傷。
包帯に巻かれた右目と、黒く光る左目。
赤い唇と、鋭い牙。
獣のような左手と、背中に生えたコウモリのような羽。


白くきめ細かい肌に映える青紫のポニーテール。
宝石のように存在を主張する瞳。
赤い唇と、鋭い牙。
先ほどの傷を忘れさせる綺麗な両腕と、背中に生えたコウモリのような羽。



恐怖の化身と美しさの化身のような二人は、似ているような似てないような。
表裏一体の存在であり、だからこそ対立しあうのかもしれない。



お互いの顔を見つめあい、静かに笑いあった二人は――瞳を狂気で濡らしながら殺し合いを始めた。


もう何回目か覚えていない殺し合いを。










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