依存している。

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次の日。
たしぎちゃんとヴァクトが帰ってきた。
二人共ボロボロで、街が想像よりも激しく喧騒してたことが分かるほどだった。


「アルト中将。ただいま戻りました」

『おかえり。酷い格好だな。すぐに手当てしてもらえ』


スモーカーの船の横におれの船がついている。
おれは今自分の船に乗っていて、その遠い横にはスモーカーが自分の船に乗っていた。
二人で同じように、船に上がるための階段の最後に腰掛けている。


ヴァクトは登ってきたが、たしぎちゃんは自分の船の階段を上がろうとしない。
なにやら呟いているがここからの距離ではたしぎちゃんの声もスモーカーの声も聞こえない。


俯いていたたしぎちゃんはやっと階段を登り始めた。


スモーカーとすれ違ったところで彼の声が響き渡る。


「泣くほど悔しかったら…もっと強くなってみせろ!!!!」

「なりばすよっ!!!!!!」


自分の部屋に入っていくたしぎちゃんを見つめ、おれの横に傍観するヴァクトにからかい気味に声をかけてやる。



『君も悔しい思いをしたか?泣きてェならおれの胸貸してあげる』

「…馬鹿言わないでください」

『可愛げないなぁ…』



通り過ぎていく背中を追いかけ、船の中に入るとタイミングよく電伝虫が鳴った。
多分本部からのものだ。


《――こちら海軍本部。アルト中将でありますか》

『そうだけど』

《今回のクロコダイル討伐に関しましてあなたとヴァクト中佐、スモーカー大佐とたしぎ曹長に政府上層部より“勲章”が贈与される事になりました。更に一階級ずつの昇格が決定しました》

『クロコダイルを討伐したのは麦わらの一味であっておれ達じゃない』

《つきましては…勲章の授与式に出向いていただきたいのですが》



こちらの言う事を聞く気はないらしい。
成立しない言葉のキャッチボールにイライラしていると少しだけヴァクトが不安そうにおれを見た。



『ねぇ。おれの階級上がるとしたら、次は“大将”だよね?』

「ええ、そうです」

『それで、君が大佐』

「はい」

『大将“黒鬼”サバリー・アルトと、その部下のヴァクト大佐。なかなかかっこいいじゃないか』

「……?」



疑問を浮かべるヴァクトに背を向け、おれの返事を待っている電伝虫に向き直る。



政府は今回の事件を『海軍の手柄』として世間に公開するつもりだ。
それもそうだ、政府がなんともできなかったことを海賊がいとも簡単にやってのけたのだから。
王国を救ったのが海賊の手柄なんて知れたら世間がなんと海軍を罵倒するか分からない。




















だがおれには知ったこっちゃない。



『“低脳野郎共”』

《…は?》

『上層部の人達に言っておけ』

《あの、アルト中将…》



ぷつり、とおれは電伝虫を切った。
静寂を生んだ空気の中、また電伝虫が鳴り響く。



『だーかーらー!!おれは昇格しないって…』

《おれだ馬鹿》

『スモーカー?』



電話の主は本部からではなくすぐ隣の船にいるスモーカーからだった。
昇格の話をどうしたか気になったらしい。



『蹴ったよ。腹立つし』

《おれは准将、たしぎは准尉、ヴァクトは大佐。……だが、お前は大将だぞ?よかったのか?》

『おれはこんなワイロ貰わないと昇格できないって上に思われてると思うと腹が立つ。ただそれだけだ。…それとも、お前もそう思ってんの?』

《いや…》

『おれの順調な昇格に一部の人間は良くは思ってはないことは知ってる。皆腹ん中で「こいつは何かズルをしている」と思ってるのは分かってる。だってどう考えたっておれの能力はズル<チート>以外の何物でもねェ』



ヴァンパイア。
血を吸う鬼。


黒鬼の異名通りだ。


この実には、不老不死というオプションがあり、しかもヴァンパイアの弱点はそこまでの弱みでもない。



日の光を浴びたって、昔よりバテるのが早くなっただけ。

炎を見たって一瞬怯んでしまうだけ。

ニンニクだって食べなきゃいいだけ。

十字架だってなんだかもやっとして気分が優れなくなるだけ。

流水だってもとはといえば悪魔の実の能力者の弱点なわけだし。

銀の弾だって普通の怪我より治りが遅いだけ。

鏡に映らないのは変身したときだけだし。

招かれなくても部屋には入れる。




普通にヴァンパイアがいるならば致命傷を与えかねない弱点は、おれにとっては少しの隙を作られるだけ。


こんな能力、ズル以外になんという。
でもおれは。



『でもおれは、こんなズル能力を“自分の力”だと認めてる。どんなにズルだと思われようが、これはもうおれのものだ。おれ自身だ。だから実際はズルじゃねェ!!』

《…そういうお前をちゃんと見てる人間もいるもんだ。通常運転で安心したよ。悪かったな妙な事聞いて》

『いや…おれも悪かったな。熱くなって』



それと、と言葉を紡ぎ。
おれは今まで頭の片隅で考えていた計画を話すことにした。


いくら逃げても、“大将”という地位を与えられるおれだ。
誰にどう丸め込まれて無理やり大将にされるか分かったもんじゃない。




『授与式を完璧にすっぽかすために、ちょっとこのまま一人で色んな海渡ってルーキー達見てくる』



受話器の奥で《はぁ?!》とスモーカーの声が聞こえた。









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