混沌の渦

□テニスコートの怪
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「どうしたんだ?」
掛けられた声に越前は、しまったと肩を竦め相手の顔も見 ず弁解し始める。
「腰を痛めたおばあさんを病院に送って、バスが事故に合って走ってたら道に迷っ――て」
ふと顔を上げて相手を見る。
「どこまで行きたいんだ?」
「………」
目に映る人物は、自分が所属している部長ではなく――
白のワイシャツを身にまとい、暑いというのに黒いネクタイをキチッと締めていた。
日に焼けているが白めの肌、黒い短髪に特徴的な太い眉毛と――
(…赤い瞳なんて、初めて見た…)
にこっと優しくこちらに微笑みかけている。

声が似ていたので勘違いして見知らぬ人に言い訳していたのだ。
「まちがえました。すみません」
越前は平静を装っているつもりだったが、耳まで真っ赤にしながら手足を同時に出して歩き出す。
その様子にくすっと笑って彼は越前とは反対方向に歩いていった。

(ビックリしたぁ…あの人雰囲気全然違うのに、部長とおんなし声なんだもんな。不思議な瞳の色だったな)

近くでチャイムの音が鳴る。集合時間を知らせている。完全なる遅刻。

「やっべぇ!つか、童守中ってどこ?!」



ーー
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