萌黄の風

□恋愛病棟
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幸村部長の見舞い帰り、
といっても同じ病院だから帰りってわけじゃないけど、偶然見つけたあの人の病室に寄ってみた。

ドアをそっと開けて様子を伺う。
部長の部屋より少し広い白い部屋。
窓も大きくて青い空と太陽の光と風が優しく入ってきて
飾られた花とカーテンを揺らすのが見えた。
そして――

その中で眠っている人――橘さんを発見。
今は誰もいないみたいだ。
俺は不動峰と青学の人たちにめちゃくちゃ嫌われてますからね〜

「お邪魔しま〜す」
小さい声でそう言って音を立てないように静かに病室に 入って橘さんの方に近づいた。

ベッドのすぐ横に立って橘さん観察を始めた。
強い光を放つまっすぐな瞳は閉じられている。長い睫が時折風に揺れる。
年相応の寝顔――
少し開いた口から規則正しい呼吸が漏れる。
(意外と身体細いんだな…)
そう思いながら脚に目をやる。
俺が壊した脚ーー

「ねぇ橘さん、俺アンタに同情はしないよ。もちろん謝る気もない」

だって本気じゃなかったから。
俺との試合、俺を通して何を思って何を考えてた?
――むかつく!
なんで俺を見ないんだよ?
九州2強って謡われたアンタと戦うの楽しみにしてたのに ――!!

やり場のない怒りが込み上げてきて、拳を強く握った。
空が綺麗な青なのがなんか憎らしくて俺は睨んだ。
橘さんと試合した時もこんなカンジの日だった。
そう考え たらますます頭に来た。 「…くっ」
暫く空と睨めっこしていたら静かな声が耳に入ってきた。

「杏が帰ってくる前に出ていった方がいいぞ?」
目を閉じながら橘さんが言った。
「今日は神尾たちも来るって言っていたからな。病院でも めごとは他の患者に迷惑だ」
「いつから起きてたんスか?」
「今だ」
ぱちっという音がしそうなほどの速さで目を開けたと思ったら
「ん…まぶしい……」 とまた目を閉じる。
白って光を反射させるからな。もうちょっと考えて色塗 りゃいいのに、とか考えているうちに橘さんはまたすぅ すぅと寝息をたてて眠ってしまった。 リハビリでもして疲れてたんスかねぇ。
俺と変わらない幼い寝顔になんだか急におかしくなって 笑ってしまう。
「真田副部長や手塚さんと同い年か…」
普段は手塚さんに似た大人オーラ出てるけど、こうしてみるとやっぱ俺と変わんねぇ。
変なカンジだ。
たった一年で副部長並じゃなくても、
あんなふうになれるだろうか。

ベッドに腰掛けながら橘さんに覆いかぶさるようにして…

そっと頬にキスした。

…パタン

ドアにもたれながら天井を見つめる。

橘さんのほっぺ!やわらけぇの!いい!
今度から会うたび、ほっぺチューしてやろ♪へへっ

今の俺周りから見たらヤバい人だろうな、一人でにやけ て… ま、いいや。今良い気分だからね。

向うから騒がしい声がする。アイツらだ。ダメだね、病院 じゃ静かにすんのが常識っしょ♪

俺はアイツらに気付かれる前にそこから離れた。
それから、くすっと笑ってつぶやいた。

「アンタ落とすよ」

絶対に…!

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