フィアンセの恋

□第二話
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事件は突然起きた。





ホウジュとサイがようやく心を通わせ始めたそのよく日。


サイはチンジャオと共に船に乗り近郊の島に物資の調達に行き、島をあけていた。




異変に気が付いたのは、ホウジュだった。




今日はサイ一行は船に乗り、帰りは遅くなると言っていた。ホウジュは特にすることもなく広い建物の掃除をしていた。

チンジャオの部屋の近くを掃除していた時、部屋の中から音がした。



チンジャオのお祖父様は不在のはずだ。部屋に入れる者はいないはずである。

ホウジュはドアに耳をすませた。


「ねーじゃねぇか!錐のチンジャオの宝を開けるヒミツ!」

「そんなわけあるか!絶対にあの宝玉氷床の宝を開ける鍵かヒミツがこの部屋に隠されてるんだよ!」

「ここまで忍び込んでっ!手ぶらでは帰れねぇよ…っ!」


「ギャングたちが戻る前に…早くっ!なんでもいいから情報をっ…」



一人ではない…。数人の声がする。
泥棒?いや、お祖父様の何か宝を盗もうとしている…海賊?



その時突然背後から羽交い締めされ口を塞がれた。


ホウジュ「むうっ!」


しまった…っ!
会話に夢中で背後の敵に気付かなかった。


自分自身への甘さに腹が立ったが今はそれどころではなかった。


口を塞がれたまま部屋の中に引きずり込まれた。


「おいっ!お前ら!女が立ち聞きしてたぞ!しっかりやりやがれ!」


「なんだと?!」


「ちっ!」


一斉にホウジュに視線が集まり海賊たちに囲まれた。


「どうする?話を聞かれた。顔も見られた。こいつギャングたちに絶対に言うぞ…殺るか?」


「…殺ってさっさとずらかろうぜ!」


海賊たちがホウジュを囲って揉めている時、リーダー格の男が一人ホウジュの前に出てきた。


頭「女、何か言いたそうだな。手を離してやれ。」


「は、はい!」


ようやく塞がれていた口が自由になった。新鮮な空気を吸い込むと同時にホウジュは声をあらげた。


ホウジュ「お祖父様の部屋に勝手に入り荒らすなんて許せません!私が相手をします!」


口ではそうは言ってみたが男に後ろから羽交い締めされたままで結局は動けなかった。


頭「威勢がいいな。…お前はここの召し使いか?」

フフフと男は笑いホウジュを眺めた。



「私はっ…そうです。召し使いです。」


睨みながらそう答えた。

自分が今本当のことを言えばきっと人質になり取引の材料になってしまう。
ホウジュはそう考えあえて話をあわせた。


男はニヤニヤしながら続けた。


頭「では、召し使い1人消えたところで問題はないだろう。こいつを連れて引き上げだ!」


ホウジュ「えっ?!」

ホウジュは驚愕した。


ホウジュ「なぜですか?!離してください!」


ホウジュは暴れたが羽交い締めしていた男にヒョイと担がれてしまった。


ホウジュ「やめてください!離してっ!」


頭「うるさいな。ちょっと眠ってろ。」


そう言い暴れるホウジュの首に手刀を落とした。ホウジュの意識はそこで途切れた。











ホウジュ「ん…つっ!」


意識が戻ったと同時に身体中に痛みを感じた。

ホウジュは手錠をかけられ鎖に繋がれていた。その鎖は太い柱に繋がっていた。


ホウジュ「これは…」

すぐには現状を飲み込めなかった。しかし、動くたびに食い込む手錠の痛みが現実へと引き戻した。

部屋は薄暗く周りはよく見えなかった。だがこの感覚…おそらく自分は船に乗ってることは分かった。

…自害するべきか…。


すぐにその考えが頭をよぎる。



サイ様に、いや、国に迷惑をかける訳にはいかない。


そんなことを考えてた矢先、突然後ろから声をかけられた。


頭「目が覚めたか。お嬢さん。死んでもらうと困るんだがね。」


弾かれたように振り返り、男と出来る限りの距離をおく。

いつからいたのだろうか。

現状を飲み込むのに必死で気付かなかった。



ホウジュ「なぜ…なぜ私を連れてきたのですか?!」


頭「ふふふ、それは…連れてくる価値があったからだよ。」



ホウジュ「価値?私はただの召し使いです。」


ホウジュはできるだけ低く動揺を悟られないように返した。



頭「本当に召し使いならその場で殺していたね。」


ホウジュは目を見張った。

自分の正体がバレている。



頭「なぜか分からないと言った顔をしているね。簡単だよ。」


男は笑みをたたえながらホウジュに近付いてきた。ホウジュのスカートの裾を少し持ち上げた。


頭「こんな上質な服を着る召し使いはいないよ。」


ホウジュはハッとした。
普段はこんな服を着ることはなかった。だがこの服はサイ様が自分に着ろと用意してくれた服だった。


頭「あとふたつ。」


服から手を離し、ホウジュの顎をクイッともった。



頭「こんな美しい召し使いもそうそういないね。」

ホウジュは男の手を降りきった。


ホウジュ「そんな理由…確信に繋がる根拠になってません。私は召し使いです。」


頭「あともう1つ。」



男はホウジュのことを押し倒した。



ホウジュ「やっ…」


頭「お前はチンジャオのことをお祖父様と呼んだ。召し使いはそんな呼び方はしないんじゃないかな?」



ホウジュは目を見開いた。


ホウジュ「私、そんな…そんな風には呼んでいません…。」


頭「いや、呼んだよ。…君は、13代目棟梁のフィアンセだね?」


この男、最初から分かってて私に色々かまをかけたんだ。
クッと唇を噛み押し倒されたまま下から男を睨みあげた。

頭「下町では君のことがもっぱらの噂で嫌でも耳に入ったよ。」

男はフフと笑いながらホウジュの髪の毛を一束持ち口元に持っていき目を閉じた。
その一瞬の隙を見逃さなかった。


ホウジュ「ハァッ!」


ホウジュは勢いよく横蹴りを入れた。


頭「くっ!」


男は寸前で腕で防御したが、横に吹っ飛んだ。


ホウジュは手錠で柱に繋がれたままだったが立ち上がり告げた。



ホウジュ「私は八宝水軍13代目棟梁のサイ様のフィアンセです!これ以上私に触れることは許しません。私を人質にするようならここで自害します!」



男は笑みを浮かべながら近寄ってきた。


頭「気高いな。さすが棟梁のフィアンセだね。まさか女が拳法まで使えるとはね。」



ホウジュ「それ以上近寄らないで下さい!」


その時船が突然揺れた。


ホウジュのバランスが崩れた隙をつかれた。


口に自害されないように布を押し込められ、またもや床に押し倒された。


ホウジュ「むっ!」


頭「少し拳法が使えてもやっぱり女の子だね。それに船にはあまり慣れてないのかな?自害なんてされちゃ困るよ。これから色々聞きたいことがあるしね。それに死ぬなんて…こんなに美しいんだからもったいないよ。」



そう言い男はホウジュの首もとに顔を埋めた。



ホウジュ「んんっ!んんんっ!」



その時ドアが激しく叩かれた。



「お頭っ!お頭っ!大変ですっ!」


ドアの向こう側からは焦ったクルーの声が聞こえた。



頭「ちっ!なんだ?!」


男は舌打ちをして立ち上がった。


ドアを開けると顔面蒼白なクルーが立っていた。


「お、お頭…っ!あ、あいつ…あいつです!」


頭「あいつ?まさかもう八宝水軍が追って来たのか?!」


「ち、違います!あいつです!とにかく早くっ!」

そう話している最中、激しい爆発音と共にまた船が大きく揺れた。


頭「くそっ!女、逃げようなんて思うなよっ!」


男たちは爆発音の方へ向かって消えていった。
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