cherry side&parallel

□超絶ロマンチスト
1ページ/1ページ

  

夕日が辺りを赤く染めていた。
キッチンから響く包丁の音が、懐かしさを運んでくる。


「あれ、桜ちゃんだ」

エプロンを身につけてそこに立っていたのは、桜ちゃんひとり。

「あ、椿くん、お帰り。おつかれさま」

「なんだ、きょーにぃかと思った」

「なんだとはなによ」

かわいいほっぺたがぷっと膨らむ。

「違う違う!そういう意味じゃなくって。
包丁の音がさ、こう、こなれてたから」

緩くハーフアップにされた頭を、ごめんごめんと言いながらカウンター越しにポンポン撫でる。
桜ちゃんは口を尖らせたまま、再び手元に視線を落とした。


トントントンと、リズミカルに響くBGM。

「椿くん、今日早かったんだね」

「うん、珍しく予定通り。
なに、俺に早く会えてうれしい?」



……あれ、沈黙。

「オレはちょーうれしいけど?」



……あ、ちょっと照れてる。









カウンターにもたれて、桜ちゃんが料理する姿をじっくり見学。

「桜ちゃん、料理だいぶ上手になったよね」

「ほんと?右京さんからはまだダメ出しばっかりだけど」

「ああ、アレでしょ。
きょーにぃ、初めて桜ちゃんとメシ作ったとき、あまりの下手クソさに卒倒しかけたってやつ」

「それはっ、侑介くんが大袈裟に言いふらすから」
真っ赤な顔で否定する桜ちゃん。
だいじょーぶ、オレは全部食べてあげたでしょ?




後片付けだけじゃなくて、こうして時々夕飯作りも手伝うようになったのは、オレと付き合い始めてしばらくしてからだったかな。

“オレのために、料理べんきょーしてる?”
聞きたいけど、恥ずかしいからやっぱ聞かない。



「今日のゴハン、なに?」

「ん、今日はカレー」

「マジ?オレ、桜ちゃんのカレーちょースキ☆」

「うそ、そうやって調子いいこと言うんだから」

そんなこと言いながらも、桜ちゃんはちょっと嬉しそうで。

「ほんとだよ。桜ちゃんが作ってくれたものはぜーんぶスキ☆」

「…もう、バカばっかり」







キッチンに入って、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出す。
プシュッという音を聞いた桜ちゃんの目が輝いた。

「飲む?」
「うん!」

両手が塞がった桜ちゃんに、横からビールを飲ませてあげる。

露になった首筋。
なんかイヤラシイなと思って、唇の端から零れたビールをちゅっと吸いとった。

「やだ、ちゃんと拭いてよ」

ベトベトすると文句を言うから、もっかいぺろっと舐めてやった。









キッチンとダイニングの灯りを点けて、窓辺に寄って外を眺める。
すっかり夜の帳が降り、デカい窓には自分の姿とキッチンに立つ桜ちゃんが映っている。
鍋がグツグツと煮える音。
漂ってくる美味しそうな匂い。



あー、なんか、いいな、こーいうの。




「ねー、桜ちゃん」
「んー?なに?」

ガラスの向こうに話しかける。
手元を見たまま振り向かない桜ちゃん。
くるりと方向転換し、もう一度話しかけた。


「ねぇ桜ちゃん。オレの夢、聞いてくれる?」
「え、夢?」

やっと手を止めてこっちを向いた桜ちゃん。


ああ、いいな。やっぱりいい。






「オレ、桜ちゃんとずーっと一緒にいるよ。
よぼよぼのシワシワの、じーちゃんとばーちゃんになっても側にいる。
絶対ひとりになんてしないよ」


突然何を言い出すの?って顔されたけど、構わず続ける。


「でもオレ、桜ちゃんがいないと生きていけないからさ。
オレは桜ちゃんより1日だけ長く生きるよ。

それが、たった今出来たオレの夢」


「……え、椿くん」


まるで鳩が豆デッポウな顔をして、ぱちくりと瞬きを繰り返す桜ちゃん。


「桜ちゃん。

オレのお嫁さんになってよ」


もう一度ゆっくりと瞬きをした、大きくて澄んだ瞳。
そこからキラキラとした雫がこぼれた。










大好きなきみに初めて話す、未来の話。


  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ