cherry side&parallel

□煩悩seaside
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幼い頃から幾度となく訪れたプライベートビーチ付きの別荘。今年は間違いなく過去最高に楽しい。
なぜなら、それは――…








「桜ちゃん」

「なんですか?要さん」
パラソルの下、体育座りで硫生に髪を結われている彼女は、目線だけを寄越して返事をした。

(ゆるふわアップ、そそるねぇ)


「ねぇ桜ちゃん、せっかく海に来たんだから、ちょっと泳がない?」

「海で、ですか?」
僅かに顔色を曇らせた彼女は、背後の琉生に目をやった。

「行ってきたら?桜さん。髪、ちょうど、終わったから」

満足げな微笑みを浮かべる琉生が、彼女に頷きを返す。
長い前髪をそっと耳にかけながら。

「桜さん、かわいい」
「うん、かわいいよ、桜ちゃん」
「…むぅ」

彼女はピンクに染まった頬を膨らませ、眉間をきゅっと寄せる。照れ隠しをする時の彼女のクセだ。



「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

彼女がもじもじと水玉柄のパーカーを脱ぐと、白く滑らかな素肌が露わになった。
脱いだパーカーを丁寧に畳んで琉生へと返すいじらしい桜ちゃんも好きだけど、今はとにかく時間がない。

兄と弟たちがビーチバレーでへばってる今だけがチャンスだから。

「ほら、早く行こうよ」
「あ、ちょっと待ってっ」

つんのめる彼女の手をとって砂浜を駆け抜ける。
太陽がキラキラと海原を照らしていた。







傍らを歩く彼女の水着姿を、バレないように気を付けながら上から下までじっくりと味わう。
バストを包んだフリフリレースの黒ビキニ。細いヒモが彼女の華奢なうなじでリボン結びにされている。
細身の割にはバストもヒップも程よくふんわりしている桜ちゃん。どこを齧っても美味しそうだ。




波打ち際まで来たところで、彼女は俺の手をクンと引っ張った。

「なに?桜ちゃん」
「あの…わたし…」
彼女が困ったように俺を見上げる。
「…桜ちゃん、もしかしてカナヅチ?」
すると彼女はふるふると首を左右に振って否定した。

「水泳は得意なんですけど…」
(けど?)
「海に入るの、初めてなんです」
「…ホントに?」

正直オドロキだ。
(今時そんな子がいるとはね)
桜ちゃんのパーソナルデータにまた1つ情報が加わる。


「だいじょうぶ、俺が一緒だから怖くないよ」

すぐ近くに落ちていた大きめの浮き輪を拾い、不安げな彼女の頭からスポンと被せる。


「桜ちゃんの初めて、俺が貰うね?」

そう言って彼女の顔を覗き込むと、彼女はやっぱり頬をぷっくり膨らませた。

「変な言い方、しないでくださいっ」








彼女を浮き輪ごと引っ張って沖へと進む。
(俺も水泳得意で良かった)

浜辺に見える兄弟たちは、まだ俺たちが海に出たことに気づいていないようだ。



「波に揺られるのって気持ちいいんですねー」
さっきまでの不安げな表情はどこへやら。
彼女は全身の力を抜いて浮き輪に託し、微笑みながら天を仰いで目を閉じた。
降りそそぐ太陽が彼女の顔を明るく照らす。とても美しい光景だ。

同じ浮き輪に掴まってその姿を見ていたら、俺のイタズラ心がふつふつと湧いてきた。


「桜ちゃん、泳げるって言ったよね」
「そうですね、割と」

まだ瞳を閉じたままの彼女。
無防備なことこの上ない。

「えい」

彼女の浮き輪を思い切り持ち上げた。

「ひゃあっ」

目を真ん丸に見開いた彼女。次の瞬間ぼしゃんと海中へ沈没した。

「ちょっ…ぷはっ、かな…めさんっ」

「あはっ、だいじょうぶ?桜ちゃん」

必死に手足をばたつかせて海面へと顔を出すが、波が来る度にそのかわいい顔がブクブクとのまれる。

「ごめんごめん、ちょっとやりすぎちゃったかな」

浮き輪をキープしながら俺が手を差し出すと、彼女はその細い腕を俺の首へと回し、がっつりとしがみついて来た。

「ゴホッ、かなめさんっ、なにっ…するんですかっ!」
彼女が咳き込む度に、柔らかなバストが俺の胸へと押し付けられる。
(俺、涅槃に行っちゃうかも)


「桜ちゃん泳げるんじゃなかったの?」
「今のはっ、びっくりしただけですっ」

ぜぇぜぇと肩で大きく息をする彼女の背中を、落ち着くまでゆっくりとさすってやる。
(役得、役得)

暫くすると、咳き込んでいた彼女が、なぜかクスクスと笑いだした。

「どうしたの?桜ちゃん」
「ふふ、わたし、すごくビックリしたんです。そしたらなんだか可笑しくて」
しまいにはあははと声を上げて笑う彼女につられて、俺もなんだか可笑しくなる。

(良かった、怒ってないみたいだね)

はぁ、と彼女の笑いがおさまる。

この柔らかくて可愛い生き物から、まだ手を離したくない。


「なんか、要さん」

「ん?」

「おっきくて、お父さんみたい」

…そこは恋人って言ってほしいけど。

「じゃあ桜ちゃんはちっちゃいお子ちゃまだね」

「むっ、そんな小さくないですよ、わたし」






向い合わせで浮き輪に腕と顔を乗せてゆらゆらと波に揺られる。こうしていると本当に気持ちがいい。ずっとこうしていたい気分だ。

「ねぇ桜ちゃん」
「なんですかぁ要さん」
彼女はふにゃっと気の抜けた声で答えた。



「このまま2人で無人島まで流れて行っちゃおうか。
そこで俺と仲良く暮らすの、どう?」
「それは遠慮しておきます」
彼女は即答。
(なんだよ、桜ちゃん、つれないなぁ)


「ねぇ、もしも無人島に1つだけ何かを持っていくとしたら、何にする?」

また無人島ですかと彼女は少し笑いながら、うーんと考えこんだ。

「コーヒー豆と、ワインがいいな」
「それ2つだよ桜ちゃん」
「そこはオマケして下さい。
要さんは何にします?」

「俺?」

コクリと、そしてニコリと彼女が頷く。


「桜ちゃん、当ててみて」
「うーん、ヒントください」

今度はおねだり桜ちゃん。仕方ないなぁ。

「ヒントはね、『今俺の視界に一番大きく映ってるモノ』」

きょとんとした彼女のことをじっと見つめながら答える。
その姿をしっかりとこの瞳に捕らえながら。

「それって…」

「分かった?
俺が持っていきたいもの、『桜ちゃん』」

一拍おいて、かぁっと顔を真っ赤にした彼女は、少し口を尖らせて目を逸らした。
「わたしは、モノじゃありません!」
そっぽを向いた彼女は耳まで真っ赤だ。


結構ホンキの俺の告白。どれだけ伝わったかな。








再び彼女と一つの浮き輪でのんびりと波間を漂う。
彼女は浮き輪の上で頬杖をつき、さっきからまるで寝たフリでもしているかのよう。

「桜ちゃん、俺1つ大事なこと言わなきゃいけないんだ」

「…なんですか?」
少しだけ棘のある声、片目を薄く開けて見る彼女。



「桜ちゃん、さっきから……肩ヒモほどけてるよ」

はっと彼女が胸元を見る。
そこには繊細な黒いヒモが2本、気持ち良さそうに波に揺られていた。


「きゃあっ」
慌てて両手でバストを押さえた桜ちゃんがまたしても海中へと沈没。

「結んであげるから、こっちおいでって」
「ぷはっ、いやっ、来ないでっ、ぷはっ」

溺れかけの桜ちゃんの腰を片腕で引き寄せて、身体を密着させて水着を押さえる。

「ちょっと、変なとこ触らないでくださいっ」

「暴れたら結べないよ、桜ちゃん」
(ホント、世話が焼けるんだから)


ここまで来てようやく彼女は観念したらしい。
「いい子だから、じっとしててね」
肩ヒモを結びながら俺が耳元で囁くと、彼女の肩がぴくっと跳ね上がった。
水中でばたつかせる彼女の脚が、俺の下半身を柔らかく刺激する。
(俺もドキドキしてるって、彼女にバレなきゃいいけど)


身体を強張らせた彼女の首筋には後れ毛が濡れて張り付き、妖艶な色気を漂わせている。
これはちょっと、たまらない。




ちゅっ


むしゃぶり付きたいところをなんとかガマンして、首筋を軽く吸い上げた。

「ひゃっ」

またしても肩をびくっと震えさせた彼女。

「そんな可愛い声出されたら、俺、ガマン出来ないよ」

顎をすくって彼女と視線を合わせると、彼女は涙を浮かべた瞳でキッと睨み付けてきた。
またしても、ちょっとやりすぎちゃったかな?


「もうっ!要さんのバカ!サイテー!」

ボカスカと殴られ蹴られ、彼女は1人で浜へと向かって泳ぎだした。
何度かクロールで水を掻いてから、顔を出したまま平泳ぎにうつる。
(ほんとに泳げるんだ、桜ちゃん)

「ちょっと待ってよ、ごめんごめん」

「もう、ついてこないでくださいっ」







***************







「ねぇ梓、桜ちゃんどこ行ったか知らない?」
「ほんとだ、居ないね、桜さん」
梓と2人で、キョロキョロと辺りを見渡す。

ビーチバレーが終わったときはパラソルの下に居たんだけどな。

ちなみにゲームは俺と梓と棗のチームの圧勝。
そりゃそうだよ、だってオレたち三つ子だもん。



「桜さん、要兄さんと、あそこにいる」
濡れタオルを顔に乗せて転がってた琉生が起き上がり、海の向こうを指差した。

「んん〜?」

目を凝らすと、桜ちゃんとかなにぃが波の間に見え隠れ。

あろうことか、かなにぃが桜ちゃんに抱きついているように見える。

「あぁー!!かなにぃ抜け駆けズルいんですけど!」
てか、おさわり禁止なんですけど!
オレだって桜ちゃんと抱き合いたい!
じゃないや、海で泳ぎたい!


「ホラ梓っ、いこー☆」

ペットボトルとタオルを投げ捨てて砂浜を猛ダッシュ。
後ろから後れて梓がついてきた。

勢いよく海に飛び込むと、火照った身体に海水が気持ちいい。


「桜ちゃーん!オレもまぜて〜☆」





照りつける太陽。キラキラと輝く海。真夏のバカンスは始まったばかりだ。


彼女と梓とキョーダイたちとオレ。
楽しい夏の思い出、priceless☆

 

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