cherry side&parallel

□煩悩kitchen
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「絵麻ちゃん、この先っぽってどこまで食べれるの?」

「あ、桜さん。一枚皮を剥くともう少しいけますよ。
ほら、こうやって剥いてください…」

「ほんとだ、もう少し先までいけるね」




「ねぇ絵麻ちゃん。コレ、大きすぎて入らないの」

「じゃあ四等分くらいにしてから入れてください」

「そっか…あ、入った入った!」



「絵麻ちゃん!これ、ヌルヌルして気持ちイイ!」

「たくさん使いますから、もっともっとすってください」

「もっとしていいの?」

「はい、もっとしちゃって下さい!」





キッチンから女性二人の声がする。

「ねぇかなにぃ、さっきからさー、キッチンから聞こえてくる会話、なんか、アレじゃね?」


「つばちゃんもそう思う?
何作ってるか分かんないけど、俺も交ぜて欲しいよ」


キッチンには珍しく彼女が手伝いに来ている。いつも食べるばかりで悪いから、と。
料理はあまりしないと言っていたが、本当らしい。




リビングに居る他の兄弟たちも聞き耳を立てているらしく、わたとバトルゲームをしているゆうちゃんはさっきからやられてばかり。


まさにぃはにこにこと新聞を読んでいる。同じ記事をじーっと。一向にページが進んでいない。


あーちゃんは無表情を装ってるけど…、少し耳が赤いよ。





「桜ちゃんてさ、あれで天然なとこあるよね☆

普段見れないエプロン姿も萌えるよね〜」


彼女は普段きょうにぃがしているネコワッペンエプロンをしている。俺的にはハダカでフリフリなやつがいいけどね。



うぉほん!とキッチンからきょうにぃのわざとらしい咳払いが聞こえてきた。兄弟たちを警戒しているようだ。あぁコワいコワい。




(それにしても、大きいとか太いとか入るとか入らないとか。そんな言葉を卑猥に受け取る俺が問題なんだよね)





「「「「いただきます!」」」」


夕食の献立は山芋鍋だった。

妹ちゃんがみんなのお椀によそってくれる。

うん。いいダシ出てる。

おろした山芋はフワフワで、わたは喜んでハフハフしている。



(ん?)


お椀の中になにやら四角い、あきらかに食品ではない何か。


「コレは……」


箸でつまみ出すと、みんなの視線が集まる。


「あ、






シリカゲル…」






「やだっ、どうしようっ。ごめんなさい要さんっ」


ガタッと大きな音をたてて彼女が立ち上がった。
鍋担当は彼女だったらしい。
これ以上無いってくらいにすまなそうに頭を下げてくる。

「大丈夫だよ桜ちゃん。これ食って俺が死んでも、きっと仏の道に行けるから」


「それはないよ、要。乾燥剤は少し体内に入ったくらいじゃ、具合は悪くなるだろうけど死なないから」

あははと笑うまさにぃ。さすが医者、信憑性あるけどもうちょっと俺の心配してよ。








「ほんとうにすみませんでした」

食後のコーヒーを出しながら、未だしょんぼりとしている彼女。

「もう気にしなくていいよ、桜ちゃん」

ずぶ濡れの子犬のように上目遣いでこっちを見てくる様子がたまらなく可愛くて、それと同時にちょっと悪戯心が沸いた。



「でも、そこまで言うなら俺のお願い、聞いてくれる?」

「はいっ、わたしに出来ることなら何でも!」

うん、いい返事だ。ソファーの隣をぽんぽんと叩いて彼女を座らせて、長い髪を少し掻き分けてその小さな耳に囁く。




「俺の部屋で、気持ちイイこと、してくれる?」




“ボン”っと音が聞こえてきそうなほどに顔を真っ赤にした彼女。
“気持ちイイこと”の意味、分かってるんだ。
いや、それはちょっと、とゴニョゴニョ言って、つけたままのネコエプロンの端をもじもじといじる。

「なんなら今すぐここで、でもいいけど?」

「こっ!?ここで!?」

更に慌てた様子の彼女の顎を取って、鍛え抜いた自慢のノドで最後の一押し。



「だいじょうぶ、すぐ終わるから。



桜ちゃんじゃないと俺…気持ちよくなれないんだ」




あ、桜ちゃん、フリーズしちゃった。















「あ〜、気持ちいい、桜ちゃん上手だね」

彼女にお願いしたのは肩揉み。長時間お経をあげた日は特に肩が凝るんだ。

「ちょっとヒドいです、要さん!」

まだ赤い顔で少し怒った彼女に、容赦なくぐいぐいと肩を揉まれる。


「ごめんごめん。でも桜ちゃんだって、ちょっとエッチなこと想像したでしょ…



あ、痛い痛い痛い!もうちょい優しくしてよ」




おしまいっ、と言って俺の両肩を力強くばんと叩いて、彼女がコーヒーカップを片付け始める。

持ちきれない分を手伝って一緒にキッチンへと向かった。


洗い物をする女性って、なんか、いいね。
手元しか見ていない彼女。それに両手は泡だらけ。多少悪戯しても反撃出来ないでしょ。




「桜ちゃん。

今度は俺の部屋で、ね。」

ほっぺにちゅっとキスをして、素早くキッチンから逃げ出した。




もうっっ!という彼女の怒声を背後に聞きながら、俺の足取りは軽快だった。


(それにしても、俺の煩悩が消え去る日は、まだまだ先みたいだな)

 

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