cherry side&parallel
□永久(とわ)を誓う
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ステンドグラスから差し込む虹色の光がチャペル全体を包み、十字架の影はタイル張りのバージンロードに落ちている。
(どうしよう、ドキドキが止まらない)
親族席の後ろに一人で座るわたしの鼓動は爆発するんじゃないかっていうくらい、もう限界だった。
パイプオルガンの音が鳴り響き、みんなが後方のドアに注目する。
そのドアが、外側に向かって、開いた。
「うわぁぁ、きれい」
日向さんと美和さんの登場に会場内が沸き立つ。
(美和さん、笑ってる)
その姿を見た瞬間に、またしてもわたしの涙腺は崩壊した。
もうだめだ、壊れっぱなしだ。
マリアヴェールを被った美和さん。その表情は柔らかく神聖で、マリア様そのもののようだった。
わたしの真横に差しかかった美和さんの唇が『桜』と動く。声なき声が頭に響く。
美和さんの優しい微笑みにうんうんと頷くことしか出来ず、そのたびに涙がほろりと頬を伝う。
人前式のスタイルをとった挙式は参列者を証人とし、拍手をもって二人の婚姻は承認される。
リングボーイの弥ちゃんが緊張した様子で差し出したピローはわたしが作ったものだ。
シルクのサテンにレースとスワロフスキーをちりばめた。ひとつひとつ、二人の幸せを願いながら。
誓いのキスが美和さんの額に優しく落とされる。
初々しく、とても美しいその瞬間。美和さんはまるで十代の可憐な少女に見えた。
二人の退場は一番大きな拍手と歓声で見送られた。順々にゲストと言葉を交わしていく。
「桜、泣きすぎよ」
わたしの隣まで戻ってきた美和さんが、今度は声を出して言った。
「だってぇ」
美和さんが綺麗で、美和さんが幸せそうに笑って、美和さんが大好きなんだもの。嬉しくて嬉しくて、ちょっとだけ切ない不思議な気持ちが溢れて、涙になって零れ出た。
ガーデンに移って行われたフラワーシャワー。薔薇の花びらが雲ひとつない青空に舞う。
ひらひらと舞い落ちる花びらの一枚一枚が、おめでとう、おめでとうと祝福を述べているように見えた。
結婚式でお決まりのブーケトスは無かった。その代わり…
「どうしてもこれを渡したい人がいます」
真っ白なころんとした薔薇の花束を両手に持ち、美和さんはわたしの前で立ち止まる。
「桜、次はあなたの番よ。早く幸せになってわたしを安心させてちょうだい」
胸に押し付けられるように渡されたそのブーケ。いつもいつもわたしのことを気にかけてくれる美和さんの気持ちが、痛いほどよく分かる。
こんなに嬉しい花束は、後にも先にもないだろう。
隣に居た梓くんがハンカチを差し出してくれた。ありがとう、と言って素直に受け取る。
わたしが持っていた最初の一枚は、すでに涙でいっぱいになっているから。
「桜さんは感動しいなんだね。そんなに泣いたら乾いちゃうよ」
冗談めかしてそう言った梓くんに促されて、ブーケとともに歩き出す。
わたしはもう充分幸せだよ、美和さん。
胸に抱いた薔薇の花が爽やかな風に揺れる。
わたしの心も、今日の空のように清々しく澄みわたっていた。