cherry drops
□drops 3
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フランスとの時差は8時間。
本社の朝の会議は日本で夕方くらいになる。
テレビ画面の向こうにはかつての同僚たち。いいなぁみんな、楽しそう。
しかし、わたしにもつい最近仲間が出来たのだ!
「さぁちゃんただいまぁ!」
「おかえり、弥ちゃん!」
小学校から帰宅すると、弥ちゃんはオフィスで宿題をすることになっている。
テレビ会議が始まると、わたしの後ろから覗きこんで美和さんを探すのだ。
やっぱり寂しいよね。
わたしも鍵っ子だったから分かる。誰もいないしんと静まり返った家。うすら寒いリビング。あんな寂しい思いは、こんな小さなコにさせちゃいけない。
だから思いきって右京さんに提案してみた。
『ご兄弟の誰かが帰るまで、オフィスで弥ちゃんの面倒を見させてください』って。
少し出すぎた真似かと思ったけど、右京さんは了承してくれた。
それにこれは、美和さんの為でもある。
画面越しに弥ちゃんと会話する美和さんの表情は、同僚たちが目を瞠るほどに優しい。
美和さんのデスクには家族の写真がたくさんあって、引き出しの中も手紙や絵や賞状なんかでいっぱい。
笑ってる二人をみてほっこりしながら、わたしはデザイン起こしの作業に戻る。
ちょうど空腹を感じた頃に、右京さんからメールが入った
「弥ちゃん。右京さんが晩ご飯出来たって!」
「はぁぁぁい!」
今日は何だろうねと言いながら弥ちゃんに手を引かれてエレベーターに乗り込む。
最近出来たもう1つの習慣は、朝日奈さんのご兄弟と一緒に夕飯をとるということだ。
よそにマンションを借りたことを美和さんに話したら、それはもう盛大に怒られた。わたしの夢はどうなるのとか、訳の分からないことを言いながら。
そして出された交換条件が、朝日奈宅で食事をしろというものだった。