cherry drops

□drops 3
1ページ/12ページ

フランスとの時差は8時間。

本社の朝の会議は日本で夕方くらいになる。
テレビ画面の向こうにはかつての同僚たち。いいなぁみんな、楽しそう。

しかし、わたしにもつい最近仲間が出来たのだ!


「さぁちゃんただいまぁ!」

「おかえり、弥ちゃん!」


小学校から帰宅すると、弥ちゃんはオフィスで宿題をすることになっている。
テレビ会議が始まると、わたしの後ろから覗きこんで美和さんを探すのだ。
やっぱり寂しいよね。
わたしも鍵っ子だったから分かる。誰もいないしんと静まり返った家。うすら寒いリビング。あんな寂しい思いは、こんな小さなコにさせちゃいけない。
だから思いきって右京さんに提案してみた。
『ご兄弟の誰かが帰るまで、オフィスで弥ちゃんの面倒を見させてください』って。
少し出すぎた真似かと思ったけど、右京さんは了承してくれた。


それにこれは、美和さんの為でもある。
画面越しに弥ちゃんと会話する美和さんの表情は、同僚たちが目を瞠るほどに優しい。
美和さんのデスクには家族の写真がたくさんあって、引き出しの中も手紙や絵や賞状なんかでいっぱい。

笑ってる二人をみてほっこりしながら、わたしはデザイン起こしの作業に戻る。





ちょうど空腹を感じた頃に、右京さんからメールが入った
「弥ちゃん。右京さんが晩ご飯出来たって!」


「はぁぁぁい!」


今日は何だろうねと言いながら弥ちゃんに手を引かれてエレベーターに乗り込む。
最近出来たもう1つの習慣は、朝日奈さんのご兄弟と一緒に夕飯をとるということだ。

よそにマンションを借りたことを美和さんに話したら、それはもう盛大に怒られた。わたしの夢はどうなるのとか、訳の分からないことを言いながら。

そして出された交換条件が、朝日奈宅で食事をしろというものだった。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ