short story~秘密の花園~

□どこまでも、片想い。
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人はどうやったら大人になれるんだろう。

歳を取るだけなら誰にでも出来るけど、
その分きちんとオトナになるかっていうと絶対にそうじゃない。


あたしは…自由に生きるさゆみさんが羨ましくて、
例え役の上とはいえ、
ちえさんに見つめられ、
甘い言葉を囁かれるねねのことも、
…妬ましくて妬ましくて、仕方がない。

大人じゃない以前に、ちっさい人間。

化粧前で溜息をついていると、
デッカい下級生のゆっこが、遠慮がちに近付いて来た。
「アズさん、ちえさんが呼んでます。衣装部さんのことろです」

「衣装部?ありがと、行ってみる」

ゆっこにもジェラシーは感じる。
恵まれた体格…どう足掻いてもあたしの手に入らない、持って生まれた才能。


さっき出て来たばかりのところへ戻る。

終演後、ちえさんのお衣装は脱ぐのも大変だけど、あたしなんかは簡単なもので。毎回、邪魔にならないように先に出るようにしている。

お手伝いしたい気持ちは山盛りだけど、
ちえさんのお着替えの手伝いなんて
冷静に出来るわけがなくて…


「失礼します」
入ると、既にちえさんだけだった。

バスローブ一枚になってて目のやり場に困る。

「ごめんな〜どうしても気になってて、
今日こそ、言いたかってん!」

元気だ、ちえさん。
ちえさんの目の前のシングルハンガーには、何故かあたしの役の衣装。

「ここな、この身頃の布、もうちょい詰めてもらい?
その方がずっとスタイル良くみえるハズや」

…あたしの事ですよね…?

「あたしの見え方なんて…気に掛けて下さってたんですか…?」

嬉し過ぎて、震えてきた。

「当たり前やろ?
ちえのチェックは厳しいで〜
皆んなが最高の姿で舞台に立たなな?
お客様に失礼や。

しーらんももう十分上級生やねんから
下級生にも目配りしたらなあかんで」

あたしの為ではなく、全ては舞台の為。
さすがちえさん…

一瞬浮かれた自分が恥ずかしくなった。

「はい、すみませんでした。
ありがとうございます、すぐ直してもらいます」

「しーらんも、ちえに対して気が付いたことは言うてな?

信頼してるしな?」

自分の衣装に掛けた手が動かなくなる。

信頼、してる…て聞こえた。

ちえさんが…あたしを。

ロボットのようにぎこちなく振り向いて
やっと見ることの出来たちえさんの顔は

ホンワカ優し過ぎて、
泣きそうになった。

「ちえさんっ!!
あたしっちえさんについて行きます!
絶対について行きますっ」

突然のあたしの大声に、大笑いして。

「大人のくせにカワイイこというなぁ〜

ついて来るばっかりやったらあかんで?

追い越すことも考えや?」

ちえさんに頭をポンポンされ、
舞い上がるほど心の中で喜ぶあたし。

単純だけど、これが今のあたし。
ちえさんのことが好き過ぎて
色んな感情が出入りする。

大人には、まだ当分成れそうにない。

ちえさん、
限界まで追い掛けさせて下さい。



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