So Am I
□閑話
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雨が降っていた。電車に揺れながら朦朧とそんな景色をただ眺め、拳を強く握り締める。
目的の駅に着いて下車し、傘をさしながら閑静な住宅街の中を進む。暫くして大きな道に出て、それに沿って歩けば道中に立てかけてある名前と道案内の矢印が変に現実味を帯びていた。
「美桜!」
前方でできている人集りの中からその聞き慣れた声が響き、私の方へやって来る。その顔はどこか険しく、目には困惑と哀愁が漂っていてその大変さに同情した。
「遠い所からお疲れ様」
「ううん。修こそ…本当にご苦労お察しするわ」
彼…安原修はそれにあまりうまくない苦笑を漏らし、葬式場へと案内してくれた。途中何人か生徒達と出会ったが、彼らの表情もまた困惑を浮かべていた。
名前を書いて会場へと足を踏み入れれば目の前には大きな仏壇に花がたくさん添えられ、上の方には遺影が、下には棺が置かれている。その見覚えある光景が記憶を思い出させ吐き気がしたが、ここは違うと言い聞かせ頭の片隅へ追いやった。
「…どういう、状況だったの?」
遺影に近づきながらそう問えば、修は私の一歩後ろであらましを話した。
「…放課後、屋上から中庭に飛び降りたんだ。まだホームルームが終わったばかりでそこには生徒がたくさんいて、悲鳴が響き渡ったよ。…即死だったそうだ」
「…遺書か何かは」
それに修が息を呑む音が微かに聞こえ、振り向けばその目には悲しみと共に怒りが映っていて。
「…【僕は犬ではない】」
「っ…そ、か……」
心臓が鷲掴みにされるかのような感覚に陥る。どんなに、苦しかっただろう。どれだけ耐えたのだろう。あの時の自分の言葉は、あまりに無責任だったのではないだろうか。
「…なんでっ…」
どうして、それしか出て来ない。怖いのか、悲しいのか、わからない。
「……悔しい。何故死ななければならなかったの…‼」
彼には未来があったのに。夢も、希望もあったのに。何故死んでしまったの。何が彼を追い詰めたの。
「…ごめん」
「修は悪くない。だから、胸張ってなくちゃ。貴方があの学校を、生徒を変えるんでしょう?」
お互いの顔を見ずにそう告げる。修は悪くない。彼だって優秀だけれど万能じゃない、まだ子どもで。この事件にショックを受けていない筈がないのに。
「坂内君のご両親は学校になんて?」
「やっぱり学校のせいだって言ってるよ。今理事会が裁判に持って行かないように采配してるそうだ」
「…愚弄ね」
彼が、坂内君が死んだのは事実なのに。自分達の教え子だったのに。大切なのは彼の事を教訓に学校を変えるのではなく自分達の保身だなんて。謝罪でなく批判だなんて。
…大人なんて、皆同じだ。