艱難汝を玉にす
□百物語編
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まさかここまでとは……
とお弁当の卵焼きを突っつきながらちらりと皆がたむろう方を見た。
「『〜〜村』ってのはー」
「んでそこに行くと」
「お祭りで人を殺しちゃうんやって!」
先日ある一本の動画がインターネット上に流れ、瞬く間に人々の注目を集めた。もちろんミーハーな高校生が惹かれないはずもなく、その例に漏れず美桜達のクラスでも現在進行形で話題になっていた。
…正直、熱を帯び過ぎている。あぁあの依頼が余計に面倒になりそう、なんて竜二の様子を見れば、窓際に座ってお弁当を食べながら本を読んでいた。それにまた溜息を一つ漏らし、立ち上がって竜二の方へ向かった。
「ねぇ竜二さん、その本うちのでしょ。何学校に持ってきてんのよ」
本を取り上げ目線を合わせればギロリと睨まれる。まぁ今更そんなものが私に効くはずもなく。
「お前の兄貴に借りたんだよ」
「んな事知ってるわよ。それ、汚してみなさい?とばっちり受けんのはあんただけじゃないんだからね」
兄は歴史学者として資料が汚れる事を酷く嫌う。普段温厚な分怒ると怖いし、ちょっと面倒だし、申し訳ないしでいい事なんてなに一つないのだ。
「な、二人はどう思う?」
「「は?」」
睨み合う私達を割くようにして満面の笑みでそう聞いてきた彼女、アスミちゃんの突拍子もない質問に聞き返す。
「だーかーらっ!『〜〜村』、あると思う⁉」
…アスミちゃん、意外に強者だ。こんな目つきもとっつきも悪い奴に声をかけるなんて。それにしても面倒な質問。
そんな事を思っていれば、竜二が窓際から下りて廊下へ歩き出した。相手にするのも嫌らしい。
「なぁこの際確かめに行こうや!」
「あ、それいいっ‼」
群がっているクラスメイトの誰かがそう言い、それに何人かが興味を持つ。
「次の休みにでもーー」
「「やめたほうがいい」」
…まーた竜二とハモった、と妙なシンクロ率に内心苦笑を漏らしながらもアスミちゃん達の方へ向いた。
「いい?この話は十年前にも一度流行したの」
「美桜…?」
「そして自然消滅した…それが今ぶり返しただけ。時間の無駄よ」
「だいたい大学受験前にそんなくだらんことに現を抜かすから三流大にしか行けんのだ。そんなんだと大学でも遊び呆けて真面な就職口にありつけんぞ‼愚民どもが。
…った‼」
言うだけ言い切った竜二が廊下にでようとした瞬間頭を抑えて疼くまる。知深がそれを見て頬を引き攣らせた。
「美桜…それは痛いで」
遂には皆まで竜二に哀れな目を向ける。何故かと言うと私が持っていた書物を投げて竜二の頭にヒットさせたからだ。あぁ重量ある本でよかった、と微笑みながら竜二に近づいた。
「竜二君?貴方はこの国の総理大臣?この学校の校長?偉そうにすんのも大概にしなさいよ」
仁王立ちしてほくそ笑めば竜二も立ち上がり睨みつける。
「お前…後で覚えとけよ」
「もう忘れた」
「つーかお前のが書物雑に扱ってんだろ」
「私の家のものだもの。竜二如きの頭に当たった所で大して傷もつかないわよ」
といつもの如く永遠と言い合いを続ける。それに若干周りは引きつつも、巻き込まれないよう無意識に反対方向へ後退していった。