番外編
□例えるなら意地になった子ども
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あ、富士山。
窓の外を流れていくそれを見つけ、魔魅流君にでも教えてあげようと振り向き……目線を元に戻した。
さっきから無言、無言、無言。
まぁそれもそのはず、竜二はとっても機嫌が悪いのだから。愛しの妹に反抗されて、宿敵ぬらりひょんの孫に負けて。
「…ねぇ、そろそろ機嫌直したら?」
「黙れこの暴力女」
更に眉間に皺を寄せてこちらを睨みつける。…私が何をしたって言うのよ。そう言おうとして、ふと新幹線に乗る前の疑問が頭を過った。
「そう言えば、ゆらにチケット以外で何を渡してたの?」
彼は随分大きなビニール袋を渡していた。…この兄に妹へ対しての優しさ、気遣いなんて言葉は存在しない。あるのは精々楽しい玩具程度だ。
「あぁ、コーラとハッカ飴を」
…あれ、意外と普通なチョイス。アンセンスだけど。なんだ、ちょっとは気遣う素振りくらいーーいや待て。
「…まさか、それを混ぜろとか言ってないわよね」
もはや疑問口調にもなれない。どうしよう、激しく先が読めてきた。
「よくわかったな」
ニヤリ、そんな効果音がつきそうな位意地悪く口角を上げたこいつに殺意さえ芽生える。
「発育にいいって書いてやったよ」
こいつ……ガキだ‼
手の込んだ小学生男児のようなイタズラに怒りを通り越して呆れさえ感じる。
そう、確かにコーラとハッカ飴は糖分が沢山含まれているから疲れている時なんかはいい。
けれどそれらを混ぜると…爆発するのだ。まるで噴水のように。
「でもさすがに気づくんじゃ…?」
今まで大人しかった魔魅流君がそう声を上げる。…うん、普通そう思うわよね。
「いいや、絶対に引っかかる」
「いいえ、絶対に引っかかるわ」
見事にシンクロ。
伊達に彼女の姉をしていないのだ。きっと訳もわからず妖怪だと慌てるのが目に見えてる。
「オレ達にはわかる。なぁ?」
「…そうね……」
あぁゆらご愁傷様。と心の中で呟いた。