英雄恋愛小説

□意味を教えて
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3人だけの食卓。
天晴、八雲、霞はじゃんけんに勝った順に道場を去っていった。
残された風花、凪、旋風は夕食の席についた。

寂しさに沈んでしまった風花を元気付けようと、凪と旋風が明るく話しかけるが、風花はなかなか乗ってこない。
「元気だしてよ、風花ちゃん…」
「ねえ、凪。」
風花は、真剣な顔で凪を見上げた。
「何?」
「凪はどこかに行ったりしないよね。ずっとここにいるよね?」
「え…っと…」
凪は口ごもると、箸を置いた。

「あのね、風花ちゃん。僕も来週には家に帰る予定なんだ。」
風花は目を見開いた。
「なにそれ、凪の家はここでしょ⁉」
「いや、そうじゃなくて、自分の家に帰るんだよ。学校は電車で通えるから。
 戦いも終わったんだし、いつまでもここに下宿させてもらう訳にはいかないでしょ。」
「…お父さん。」
風花が睨むと、旋風は慌てて姿勢を正した。
「凪、そんな事言わずに。ずっとここに居てくれていいんだよ。」
「お父さん!」
「いやいやいや、むしろ居てください!
 これでも風花は寂しがり屋なんだよ。お願いだから、ここに住んでくれないかな。」
「…おじさん…ありがとうございます。でもそろそろ受験勉強に専念しないといけないし。」

風花は焦って、凪にすがりついた。
「やだやだやだ。なんでそんな事言うの?勉強なんか、ここですればいいじゃん!」
「でも…」
凪が困ったように微笑んだ。
「やだ!置いてかないで!」
風花は凪の胸に額を押し付けて泣き出した。
「やだあ…行っちゃやだよ。」
泣き声はどんどん激しくなる。
「風花ちゃん…」
凪は風花の背中を撫でた。

多分風花ちゃんは、行ってしまった皆の為に泣いている。
皆を笑って見送ってたけど、ほんとはずっと泣きたかったんだ。
決して僕の為に泣いてる訳じゃない。

「なんで?なんで、ここじゃだめなの?」
「なんでって…」

この一年で、ただ一緒に暮らしているだけじゃ家族にしかなれないってわかったからだ。
やっくんもキンさんも二年後には、きっとすごくいい男になって帰ってくる。
その時、ただ一緒にいただけの代わり映えのしない僕…という構図だけは避けたい。

僕も二年間風花ちゃんに会わないってわけじゃない。
このアドバンテージを無駄にするつもりはない。
会いたいなって思ってもらえて、電話したり、外で遊んだりするような、そんな距離感が欲しいんだ。
そうすれば僕だって、男として意識して貰えたりする…かもしれない。

「ほら、風花ちゃん。凪が困ってるから。」
旋風が風花の肩に手を掛けた。
「やだ!お父さんはあっちに行ってて!」
風花は泣きながら父の手を振り払う。旋風は肩を落として部屋を出て行った。

風花は涙でくしゃくしゃの顔を上げた。
「凪は、私の傍は嫌なの…?」
「……まさか。」
嫌な訳がない。本当は一瞬だって離れたくない。
「じゃあ、ここにいて!」
「……」
黙っていると、再び風花の目から涙がこぼれた。
「どうして?凪はいつでも私のお願いきいてくれてたじゃん!
 ううん、お願いなんかしなくても、いつだって私のして欲しい事わかってくれて、
 先回りして叶えてくれてたのに!」

(…知ってたんだ。)
凪は風花を見つめた。
風花はまた凪の胸で泣き始めた。


(そうだよ、僕は何をやってるんだ。
 今までずっと風花ちゃんが笑顔でいてくれるように頑張ってたのに。)

こんなに泣いてくれるなんて思わなかった。たとえ、皆のついでだとしても。
僕の姑息な御膳立てのせいで風花ちゃんが泣くなんてだめだ。

「わかったよ。
 風花ちゃんやおじさんがそう言ってくれるなら、ここに居させてもらおうかな。」
「ほんと!?凪、大好き!」
風花が顔を上げた。
(どうせ家族として、だろうけど。)
「僕も風花ちゃんの事、大好きだよ。」
凪は自分の袖で風花の涙を拭ってやった。


風花は凪の首に両腕を絡ませて抱きつくと、耳元で小さく囁いた。

「…好きだよ、凪。」

その吐息の熱に、凪は驚いて風花を見た。
間近で見る風花は大人びた微笑を浮かべていた。

(こんな風花ちゃんは知らない。)
凪は息が出来なくなった。

風花ちゃんの事は、好きなものも、やりたい事も全部わかっていると思っていた。
僕はもしかして、何か重大な見落としをしていたのだろうか。

「…僕も…好きだよ。」
凪は喘ぐように答えた。


end


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