英雄恋愛小説

□アンドロイドは天才シェフの夢をみるか
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「あー、ひどい目にあった」

スパーダはシャワールームで、髪と顔に付いたクリームを洗い落とした。
ケーキで仲直り出来ると期待していたのだが、ラプターの反応は予想外だった。
あれは…妄想している所を見られてしまった時の反応と同じだったような…
着替えてシャワールームを出ると、ラプターが壁にもたれて待っていた。
ぼんやりと天井を見上げている。

「ラプター?」

声を掛けると飛び上がって両手をバタバタと振り回した。

「してません!妄想なんてしてません!」
(してたんだな)

スパーダは、そこには突っ込まずに「どうしたの?」と笑顔で尋ねた。

「あの…ごめんなさい!せっかく作ってくださったケーキを台無しにしてしまいました!」

ラプターは頭を下げた。

「ああ、いいんだよ。まだ残ってるでしょ?そっちを食べたらいいよ」
「そういう問題ではありません!」

ラプターはまだ頭を下げ続けている。
スパーダはしゃがみこんで、下からラプターの顔を覗き込んだ。

「僕の方こそ、ごめんね?」
「ひゃあああああ!」

ラプターは驚いて飛びのいた。

「あ、ごめんごめん」
「ななななななにがですか?」

スパーダは笑顔を消して立ち上がった。

「君の夢を妄想と決め付けて、邪魔していた。ラッキーに言われるまで気付いていなかった。ごめん」

ラプターに向かって頭を下げる。

「え?うそ!やめてください!」

ラプターはスパーダに駆け寄って両肩を掴み、無理矢理お辞儀をやめさせた。

「妄想だったんですよ!ほんとに!なんでスパーダがあやまるんですか!」

「でも、ラッキーは君を信じてた。僕は君を守ってるつもりで…君を信じていなかったのかもしれない」
「スパーダは私のスペックを正確に知っていただけです!私だってそんな奇跡信じてなかったです!」

スパーダはまだ辛そうな顔をしている。
ラプターは自分がスパーダの肩を掴んだままだったのに気付いて、慌てて手を離した。

「それに…私は嬉しかったです。誰かに心配して貰ったのは初めてですから」
「初めて?」
「だって私はアンドロイドですよ?壊れたら最新機種に買い換えればいいだけの話です」
「そんな…!」
「取り返しがつかないなんて、言って貰った事なんてないです…そんな風に言って貰えたの、初めてです」
「ラプター…」

スパーダは慰めるようにラプターの肩に手を置いた。
ラプターが慌てて飛びのく。

「だっだから!とにかく!私は嬉しかったんです!謝る必要なんてないんです!」

明るい声で話を纏めようとするので、スパーダもそれ以上追求するのは、やめにした。

「そうか・・・なんにせよ、君の初めてになれて嬉しいよ」

ガン!

ラプターがいきなり壁に頭を打ち付けた。

ガン!ガン!ガン!

「わあああ!ラプター!何してるの!」

スパーダが驚いて壁からラプターを引き剥がす。

「あああ、すみません。なんだか急に妄想が入り込んで来て…」
「何の妄想?君の夢はもう叶ったんだから、妄想する必要はないよね」
「ああ、違うんです。それとは別の…いえ!なんでもありません!」

ラプターはキリッと眼鏡を押し上げてスパーダに背を向け、そのまま立ち去ろうとした。

「……ふうん」

スパーダは何となく意味を察して、カマをかけてみる事にした。

「ねえラプター。その妄想の王子様は、ちゃんと僕なんだろうね」
ゴン!

ラプターは自分の拳で自分の頭を殴りつけた。

「また妄想が…!私、壊れてしまったのでしょうか」

ふりかえらないまま歩き続けるラプターに更に声をかける。

「相手がラッキーだったら、許さないからね!」

「きゃああああ!バグが!幻聴が!いやあああああ!」

ラプターは耳を塞いで逃げ出した。



end


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