月の語り

□『talking to the MOON』
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「ジャッカル 今夜は
飯でも食って帰らんか?
オレが奢るぜよ」



「……別に構いませんが」




「そうか…ほなら
酒が入るきに
トラックは置いていく
どうせ明日は休みやけ」


馬車の突然の申し出に
赤屍はいつもどうり
居酒屋かファミレスあたりかと
思った


しかしパ−キングにトラックを
預けると馬車は
Yシャツに着替え
ネクタイまで締め
髪も整えだした


「おやおや…
これは珍しい…
お目当ての女性でも
いるのですか?」


クスッと笑う赤屍に
馬車はむっつりとしたまま
ジャケットを羽織る


「阿呆
そんなとこには
いかん
ただ 今回はいつもの格好では
入りずらいき」


そのまま表に出て
馬車はタクシ−を
拾いあるホテルの名を告げた



「ますます珍しい…
どうしたのです
一体」


クスッと笑う赤屍に構わず
馬車は後部座席から
バックミラ−を見ながら
ネクタイを整えた


「黙って来ればええ」



そのまま ホテルに着くと
馬車は最上階のレストランに
赤屍を連れていった


何度かテレビにも
紹介されたところだ


足元に広がる夜景が
よく見える窓際の席が
リザーブされていた



「よく席が取れましたね
ヘブンさんですか?」


「あん女は優秀な仲介屋やき」


やがて
ワインが
運ばれて来た


慣れた手つきで
テイスティングをし
ワインを選ぶ馬車に
赤屍はますます驚いていた



「ボジョレー・ヌーボーや
まだ今年は
飲んどらんやろ?」


「…付き合いは長いですが
まだまだ意外性が
ある方なんですね
貴方」


「何気に侮辱されとる気が
するが…今夜は勘弁してやるき」


「何に乾杯なさるのですか?」


真っ赤なワインを手に
赤屍はクスッと笑った


テ−ブルのキャンドルが
照らす白い美貌は
この世のものとは
思えないほど美しい


蒼紫の瞳の中に
妖しく揺らぐ灯火に
一瞬見惚れた馬車は
さりげなく視線を外した


「お前誕生日やろ
今夜は」


一瞬瞳を見開いた赤屍は
ああ と呟いた


「そういえばそうでしたね…
忘れていました」


「誕生日おめでとう 」



「ありがとうございます」


カチンと軽くグラスを合わせ
二人はワインを飲み干した


「うん…うまいなあ
今年はできがええとは
聞いてたがうまい…!」


「貴方がワインについて
語る日が来るとはね」


「うるさいやつやな
うまければ なんでもええ
焼酎でもワインでもな」


次々と運ばれて来るのは
シェフのお奨めコ−スの
イタリアンだ


テレビで話題になっているだけ
あって味も盛り付けも
素晴らしい



「美味しいですね
本物の黒毛和牛のようで」


「◯◯◯ホテルを
知っとるやろ?」


馬車は声を潜める


「先週そこに
依頼人に会いに行きましたよ
確か俳優の…」


赤屍の上げた名前に
馬車は頷いた


「グルメとかでテレビで
ウンチク垂れよるやつやな
さぞしたり顔で話しとったやろ」

「食べてるフランス料理について随分語って
いらっしゃいましたよ」


「残念やが
あそこの肉も野菜も
全部偽物や
有機農業のどうのとか
肉はやはり近江だとか
知ったかたれとるがのお…」


「おや
そうなのですか


「オレが運んだから
間違いはないけえ」


くっくっと笑う馬車に
赤屍もクスクスと笑う



酒も料理も進み
最後のデザ−トは
小さいながらも
バ−スデ−ケ−キとして
ロウソクもついていた
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