異世界渡航

□蒼井君と、うたプリの世界で…ファンタジー?
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朝。
ふと目覚めた二人の背に翼はない。
いや、少女の背にはまだしわくちゃの羽根がある。
森の中の様ではあるが所々人の手が入ったような整然とした風景と、そして建造物が見える。
辺りを見回し、そして森の中に少女の手を引き歩いていく。
今のこの少女を人間の目には晒してはいけない。
靴を履かぬ二人だが、不思議と傷はつかなかった。
やたらと広い森の中に、少し拓けた場所。
そこには小さな池があり、どうやら湧き出ている様だ。
それが川となり、先程の湖に流れ込んで居る模様。
だが、深い森に人の手は感じられず、とりあえずその湧き水の側までいく。

「…ここに岩場があれば雨よけになるのに…」

曇り空を見上げた少年は呟く。
そして少女を振り返る。
少女とはいつの間にか手を離していたが、少女が足元を見つめ、少し驚いた様な、怯えた表情を見せていた。
そして少年もその足元を見て驚く。
草花が少女の足元からたくさん生えてくるのだ。
足を別の所に置けば置くほど、その場所は草花が生い茂る。
そして。
ガコンという音に二人が見やれば。
そこには大きな岩が、湧き水の池を覆う様な窪みで生えた。
ポツリ
ポツリと雨が二人の顔に掛かり、二人は急いで岩の窪みに入る。
少し肌寒い。
二人は寄り添って空を見上げた。

「何が…」
「分からないけど…子供になっちゃったのは確かだね…」
「うん…」

ちらりと少女が見るのはしわくちゃの自分から生えている羽根。
まるで羽化したばかりの蝶の様だ。
だがその色は白と黒の半透明。
あまりの出来事に小さな身体をより小さくする少女。

「…そう言えば自己紹介、まだだったね。」
「あ、うん…」

そうして二人はしばらく沈黙する。

「僕、蒼井翔太って言います!」

少し逡巡した後、少年は笑ってそう答えた。

「…蒼井翔太…声優の?」
「うん!」

少し躊躇ったのはこれは芸名だからだ。
だが、気に入ったものであるのは間違いない。
そして、少女もまた…
少し躊躇った後。

「霧澤、水華…です。」
「水華ちゃん、だねっ」

水華は、自分の名前が嫌いだった。
ありふれていて、どこにもある名前が。
故に好きな響きを名乗った。

「ここはどこだろうね…」
「うん…」

昨夜の事は衝撃的過ぎて記憶も曖昧である。
だが、
分かることは。

「…お腹空いたね…」
「…うん…」

推定10歳前後の二人では、街に出た所で何も出来ないだろう。
更には水華には未だ羽根が付いている。
まずはこれをなんとかしないといけないだろう。
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