天獣

□天獣
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昔々のお話です。
その昔、神獣と呼ばれた獣達がいました。
その獣達は人間とはとても友好的であり、人間もまた神獣達とは仲良く暮らしていました。

しかしある時、神獣達を利用する者達が現れたのです。
それに怒り悲しんだ神獣達は仲間と共に神獣達の世界へと戻ってしまいました。

さて困ったのは人間。

ではなく、人間と神獣達との間に出来た子供達。

その子供達は神獣の力を使い、身を潜めながら暮らしていきます。





そしてそれは神話となった現代。


突如神獣の力を蘇らせた人間達はたいそう弱ります。
特異な力に、ある者は殺され、ある者達は虐げられます。
そしてその様子を見ていた神獣達はその人間達を神獣の世界へと迎え入れたのでした。


「ここが神獣の世界…私も…」
「そう。そしてそなたは我の後継者。」
「…後継?」
「狐の力を受け継いだ子は沢山いる。だが我と同じ九尾はそなたしかおらぬ。」
「九尾…」
「そう。そして先ずの注意がある。」
「…」
「覚醒と共に発現する天珠は我等神獣にとって命に等しきもの。くれぐれも無くしたり奪われたりしてはならぬ。それだ
けはゆめゆめ忘れぬよう。」
「はい。…?」

外が騒がしい。

「ここは天狐と天狼の街。騒いでおるのは…天狼達か?」
「天狐…天狼…?」
「我等狐種を天狐、狼種を天狼。ここはその二つの種族の街だ。」

そう言って私を助けてくれた長が器用に尻尾の一つで障子を開けた。
そこには昔の木造の街並みが広がっていた。

「…水華。そなたの傷は直に癒える。だが…」
「…ここの人は私と同じ、でしょう?」
「うむ。」
「…多分、大丈夫…」
「ここの者達も人間界では疎外されたり迫害を受けた者達が大勢いる。…そなたが一番酷い有り様ではあったがな。」
「…そう…」
「まずはゆるりと休め。…お節介や世話焼きが沢山いるがな。」
「?」

長の鼻先の向こう、そこには少し見える耳と尾が沢山あった。

「…ありがとう…」
「っ!」
「だが姫はまだ養生が必要。無闇に騒ぐでないぞ。」

その言葉に少し衣擦れを残して退散した人達に苦笑し、長も部屋から出ていった。


障子の向こうの景色に漸く安心出来る場所に来たのだと私は1人涙を流した。
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